『飛ぶ教室』テーマが重すぎた!? ジャンプ史上最も泣ける打ち切りマンガ

テーマが重すぎた!? ジャンプ史上最も泣ける、打ち切りマンガ『飛ぶ教室』(2018/10/10日刊サイゾー掲載)

 皆さん、涙活してますか? 1カ月に2~3分、思いっきり泣くことで心のデトックス、ストレス解消ができるらしいですね。ストレスフルな日常を送る現代人にはピッタリといえます。ちなみに僕は先日、足の小指をタンスにぶつけて強制的に涙活しました。むしろ、ストレスがたまったんですけど……。

 で、今回は涙活にも使えそうな、泣けるマンガを紹介したいと思います。連載当時は、主人公たちのあまりに悲惨な境遇が大反響を呼んだものの、わずか単行本2巻で打ち切られてしまうという二重の意味での悲しさを背負った作品でもあります。

『飛ぶ教室』は1985年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載されていた作品で、作者はひらまつつとむ先生。文字通り、あまりにブッ飛んだタイトル名に「教室が飛ぶわけねーだろ! ヤク中かよww」と子ども心に思っていたのですが、後になって、実はドイツの同名の児童小説『飛ぶ教室』から取ったものだと知り、随分と恥ずかしい思いをしたものです。

ある日突然、東京に水爆が落とされ、関東一円は壊滅状態となる中、たまたま核シェルターにいて生き残った新任の女性教師と小学生たち。放射能濃度が下がるまでシェルターで1カ月近く過ごし、いざ地上に出てみると、そこはまさに地獄絵図だった……という、当時の少年マンガの王道を行くジャンプ掲載作品でありながら、非常に生々しい、かなりマジな雰囲気のマンガでした。


廃墟や死体がやけにリアル

 

登場人物たちはみんなかわいらしいのですが、水爆の影響でグシャグシャになった廃墟や死体はやたら劇画調でリアルに描かれており、そのギャップがまたなんともいえない恐ろしさを醸し出しています。

■『はだしのゲン』の数倍悲惨!

そこら中に死体が転がり、自分たち以外は誰一人生き残っていない世界。『はだしのゲン』の数倍悲惨な状況で生きていけっていうんですから、小学生にとっては非常に過酷です。

放射能に汚染されていない食物や水を求め、命がけで危険な廃墟に乗り込んだり、変わり果てた姿の肉親と再会したり、シェルターに閉じこめられた赤ん坊を救出したり……いたいけな子どもたちに襲い掛かる苦難の連続。作品序盤にして、この先の展開を考えただけでも号泣必至です。


過酷すぎる少年少女達

 

■常に誰かが泣いている

『飛ぶ教室』の主要キャラクターは主人公のオサム、ガールフレンドのみっちゃん、一番の秀才でリーダー格のサトル、そして唯一の大人である担任の北川先生です。

主人公であるはずのオサムは心優しき少年ですが、イマイチ頼りなく、何かにつけて泣きだし、リーダーのサトルに頼りっきり。主人公がこんな感じの上、数ページを開くたびに不安になった子どもたちの誰かしらが泣いています。


子供が泣きまくりのマンガ

 

北川先生は美人で男前で生徒からの信望が厚く、的確な指示を出してくれる頼りになる存在ですが、実は死の灰を浴びて余命幾ばくもない状態。吐血したり、髪の毛が抜けたりして確実に死期が迫っているのですが、生徒に心配させまいと、それをひた隠しにしているのです。ここがまた読者にとってはスゴい泣きポイントになっています。まさしく、どこから読んでももらい泣きできる作品といえるでしょう。


先生の死亡フラグ立ちすぎ

 

■サトルがハイスペックすぎる!

北川先生が半病人のため、実質的な司令塔となるのが秀才キャラのサトルです。放射能に関して豊富な知識を持ち、とにかく冷静沈着で大人の態度を併せ持っています。小学生のクセにやたら頭が良く、廃墟になったコンピューター会社に潜入。スーパーコンピューターをハッキングしてデータを取り出すシーンがあったり、無線機を修理したり、水力発電機を設計したりと、飛び抜けてハイスペック。サトルクラスが数人いれば、核の冬なんか屁でもなく、なんなら世界制覇も可能かもしれませんが、いかんせん他のメンツが至って普通の小学生なので、そうそううまくいきません。


サトルだけぶっちぎりハイスペック

 

■ラブシーンに癒やされる

とにかく登場キャラクターがこぞってメソメソしがちなマンガなのですが、唯一の癒やしともいえるほのぼのシーンが、オサムとみっちゃんのラブシーン。ラブシーンといっても小学生同士ですから、2人でベタベタしているくらいのものなのですが。

オサムは主人公のクセしてたいして役に立たないのに、ガールフレンドとはしっかりラブラブしているというのが、わりとイラッとするのですが、ひらまつ先生のかわいらしい画のせいで、そのへんも含めてほほえましい感じになっています。


数少ないほっこりシーン

 

■救いがないラストシーン

作品のラストでは、死の灰に侵された北川先生が、ついに亡くなってしまいます。精神的支柱を失った子どもたちがこの先どうなってしまうのか、肝心なところがわからないまま、なんとも救いのないラストを迎えます。


唯一の大人・北川先生の死がクライマックス

 

それもこれも、作品が打ち切りになってしまったから。確かに「友情・努力・勝利」のジャンプ的な要素がない地味マンガではありましたが、単行本の巻末では

「こんなすばらしいマンガはじめて!」

「わたしの心から消えることはないでしょう!」

「飛ぶ教室はクラスの人気者!」

「恐ろしい戦争なんてやめて!」

みたいな読者からの反響が寄せられており、もう少し続いていても全然不思議はなさそうな感じでした。

■打ち切り理由も悲しい

後にひらまつ先生のオフィシャルサイト上で、実際のところ人気はまずまずあったが、放射能というテーマが当時のジャンプとしては重すぎ、編集部から終了を言い渡されたとのことです。やはり大人の事情だったのですね。継続していれば後世に語り継がれるような名作になっていた可能性があるだけに、なんとももったいない話です。

しかし、先のサイトによれば、オサムたちのその後を描いた『飛ぶ教室 第2部』の制作を進めており、2018年発売を予定している、との記述があります。車田正美先生の『男坂』がそうだったように、『飛ぶ教室』も30年の時を超えてまさかの続編が出るのか!?

ただ、もう18年もけっこうな後半に差しかかっていますが……。奇跡が起こることを願っています。

【追記】2020年5月に『飛ぶ教室』完全版が出版されていました。

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引用)
『飛ぶ教室』
ひらまつつとむ /集英社 /潮出版社

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