『味愛物語』 レンジでチンする、伝説の「美味しんぼ」劣化コピーグルメ漫画

『味愛物語』 レンジでチンする、伝説の「美味しんぼ」劣化コピーグルメ漫画

  


 
チーンとあたためりゃいいだけだ!
本日ご紹介するのは、「グルメコミック 味愛物語」なる作品。まず、単行本の表紙を見てみてください。はじめてなのにどこか懐かしいこの表紙。構図から何から、あの有名グルメ漫画をパクッてるとしか思えません。いや、何の漫画とはあえて言いませんけどね。グルメ漫画といえばだれもがパッと思いつくあの作品です。

  

あの漫画を安っぽくした表紙
  

いや、よく見ると全然違うか!?写真の大きさも微妙に違うし、作・画の配置も違うし、何よりキャラが思ったより似てません(そりゃそうだ)。というわけで、あの有名グルメ漫画に影響を受けまくりながらも、元作品をどこも超えていない、何も足さない何も引かない…いやむしろ引いてばかりの劣化コピー具合が実にほほえましい「グルメコミック 味愛物語」。本日は後ろ暗い事情ゆえか入手困難すぎて伝説になってしまったこのグルメ漫画をどこよりも詳しくレビューしたいと思います。

  
扶桑社の黒歴史の可能性も
  

「味愛物語」は作:板倉幸夫先生、画:雄樹慶先生となっております。もしかして1%ぐらいは雁屋哲先生・花咲アキラ先生コンビの可能性もあるかなと思っていましたが、当然ながら違いました。そして、出版社はなんと扶桑社。扶桑社といえばそう…ご存じ「孤独のグルメ」を生み出した出版社ですね。

『美味しんぼ』:1983年連載開始
『味愛物語』:1986年発売(本作)
『孤独のグルメ』:1994年連載開始

という時系列になっております。なんとあの「孤独のグルメ」の8年も前に出ていたグルメ漫画の大先輩なのです。そういう意味では「味愛物語」という礎がなければ「孤独のグルメ」は生まれなかったと言えなくもないのかもしれません。(暴論)

  
課長仕事サボってない?
  

さっそく作品をご紹介していきましょう。舞台は広告代理店「電友」(電通ではない)。EMO電機が新発売するオーブンレンジの広告を巡ったコンペが行われようとする中、抜擢されたコピーライターが主人公の山岡…もとい、志賀蓮司(しが れんじ)だったのです。

  
バイク専門だと…?
  

「アイツはバイク専門にやってきたが、なかなかいいセンスをしてるしな」
バイク専門のコピーライターをいきなりオーブンレンジの広告のコピーライターに抜擢するとか、この課長、一体何を考えているのか、不安しかないですよね。その予感が的中します。

  
本作における山岡士郎
  
  
物知らなすぎるだろ
  

「オーブンレンジ?なんだ、それは?」
予想通り、まったく何も知りません。しかも「知らなくて悪いか」と逆切れ気味の開き直り具合。だいぶ性格にも難がありそうです。本家の山岡さんも性格には難ありでしたが少なくとも知識は豊富です。一方こいつは…

  
クライアントに舐め腐った態度
  

「チーンと温めるやつでしょう、ウチにもあるからよく知っていますよ。チーンとあたためりゃいいだけだから。」

オーブンレンジと電子レンジを完全に混同しているこの発言でクライアントであるEMO電機の部長を完全に怒らせてしまいます。無知なうえに社会人として失礼。モンスター社員すぎる。

  
さすが早幸堂、ソツがない
  

一方、コンペのライバル博報堂…もとい早幸堂は無難な発言でクライアントのポイントアップ。電通…もとい電友は主人公・蓮司のアホっぷりでいきなり劣勢です。「蓮司」といういかにもレンジっぽい名前を背負ってるのにレンジに興味ないんかい。

  
悪態つきまくりのニセ山岡
  

会社に帰ってから上司に責められてもこの悪態。山岡さんよりもはるかにタチが悪い主人公です。
さすがにこのままではヤバいということで、蓮司は、出版社に勤務しており料理に詳しいガールフレンドの栗田さん…もとい鈴木舞子(通称・舞ちゃん)に泣きつきアドバイスを求めます。

  
めちゃくちゃムッとしてます
  

いつもの喫茶店で打ち合わせということで、半分デート気分の蓮司でしたが、なぜか舞ちゃんは同じ出版社でグルメに詳しい吉川なる男を同伴させていました。舞ちゃんを巡っていきなり二人は不穏な空気に。

  
レンジのことを何も知らない蓮司
  

そもそも電子レンジとオーブンレンジの違いが分かってなかった蓮司。舞ちゃんにめちゃくちゃ初歩的な説明を受けてご納得の模様。そのぐらい先に調べとけよ…。

  
実際公私混同だしね
  

どうやら同席した吉川という男も舞ちゃんに恋心をいだいているようで、蓮司に敵意むき出し。蓮司のあまりの知識のなさに呆れてディスりまくりです。っていうかゆう子…もとい舞ちゃんのナチュラルに二股をかけていく小悪魔っぷり。なかなか大したタマです。

さて、お次のシーンでは、蓮司が舞ちゃんの家に訪問。さらに踏み込んだオーブンレンジの実践に入ります。どうやらお酒を熱燗にしたり、ぬる燗にしたりするのもオーブンレンジを使えば簡単、という実験をやっているのですが、そこで登場する舞ちゃんのお父さんが…

  
ちょっと雄山ぽいパパが登場
  

ちょっと海原雄山みがあるビジュアルです。これは、もしかして…ここから一気に究極VS至高のグルメ対決として盛り上がる展開か?と思ったら…

  
これはなかなかの老害
  

タダの酔っぱらいのおっさんでした。

  
この熱燗を作ったやつは誰だぁ!
  
  
酒乱の雄山
  

しかもレンジでチンした熱燗より、ヤカンでやった方が美味いという、都市伝説のレベルでたいそう不機嫌に。あげく「きさまなどにお父さんと呼ばれる筋合いはない!」とまで言われてしまいます。ある意味、山岡VS雄山の構図となっていますね。対決するレベルがだいぶ低いですが。

  
やや無理やり目のオーブンレンジ解説
  

その他にも唐突に親戚のおばあちゃんにオーブンレンジ指南をするシーンがあったりして、とにかく執拗にオーブンレンジの温度管理の便利さを訴えるシーンがでてくるのですが、皆さん、ここまで読んでなにか気づきませんでしょうか…?

  
レンジでみそ汁を温めるだけのシーン
  

そう、タイトルが「グルメコミック 味愛物語」なのに、肝心の料理を作るシーンがだいぶ蔑ろです。
基本的に小さいコマ内になんだかよくわからない料理がチョロっと描かれているだけで、それに対するレシピ紹介もなければ美味いまずいの感想すらでてきません。

  
一か八かのレンジケーキ
  

この漫画で最も料理が大写しになるシーンがこちらです。料理というかケーキなんですけど…蓮司が舞ちゃんの誕生日に手作りケーキを作ってプレゼントするシーン。もちろんオーブンレンジで作っていますが、作ったのは主に蓮司じゃなくて義理の姉さんです。調理シーンはほぼなく、ひたすらレンジでチンするだけのグルメ漫画…あまりに斬新すぎます。

  
男二人を手のひらで転がすニセ栗田さん
  

そんな蓮司の手作りケーキ作戦が功を奏したのか、ライバル吉川からもプロポーズを受けて思いっきり二股をかましまくっていた舞ちゃんが、ついに蓮司のプロポーズを受け入れることに。

  
一体何を見せられているのか…
  

ここからしばらく、山岡さんと栗田さんのように結ばれた蓮司と舞ちゃんの浮わついたラブラブシーンが続きます。社運をかけるコンペが迫っているとはとても思えない雰囲気ですが…。

  
急にビシッとする蓮司
  

それから急に仕事に目覚めた蓮司。オーブンレンジの訴求ポイントを元に、広告コピーもビシっと決まり、見事にプレゼンで勝利します。

  
結局全部上手くいきました
  

打ち上げではオーブンレンジで作った様々な料理が振る舞われます。なんと、ビーフジャーキーもオーブンレンジで作れるそうですよ。そして、ここでついにこの漫画唯一の料理レシピを大公開…

  
レシピに見せかけたただの作例紹介
  

よく見ると全然レシピじゃなかった。ただのオーブンレンジでできる料理の羅列でしたね。結局グルメらしいシーンはほとんどなく、オーブンレンジの利便性だけが延々と語られるという、グルメ漫画の概念を覆す画期的な作品でした。

  
結局ラブコメだったってこと?
  

見てください、この美しいハッピーエンドを。「二人の愛のポプリ」て…この急に打ち切られた少女漫画みたいなエンディングはどういうことでしょう?もしかしてこの作品はグルメ漫画の皮を被ったラブコメだったのでしょうか?

というわけで、伝説の「美味しんぼ」フォロワー漫画「味愛物語」をご紹介しました。
あまりのグルメ色の薄さと、不自然なほどのオーブンレンジ推し。普通に考えれば、当時の美味しんぼブームに便乗した「家電メーカーのタイアップ(案件)漫画」だと疑ってしまうところですが、単行本を見る限りそのような記述もなく、作中に出てくるのは「EMO電機」という架空の会社のみ。実在のメーカーや商品のPRにすらなっていないという、謎が深まるばかりの作品です。

なぜ1986年にこの異色作が生まれ、そしてグルメ漫画の歴史の闇に消えていったのか…。もしこの「味愛物語」の誕生秘話や裏事情をご存じの方がいらっしゃれば、ぜひ教えてください。

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「味愛物語」 板倉 幸夫 / 雄樹 慶 / 扶桑社

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