“ニルヴァーナ・トリップ”からバトルまで 読み手を選ぶ、異色のサウナマンガ『フィンランド・サガ』

“ニルヴァーナ・トリップ”からバトルまで 読み手を選ぶ、異色のサウナマンガ『フィンランド・サガ』(日刊サイゾー2015/11/23掲載)

 

「いつだってそう、真実はサウナでつぶやかれる」

今年もいよいよ、さむ~い冬がやって来ます。この季節、温泉や銭湯もいいですけど、体を芯から温めるんだったら、なんといってもサウナじゃないでしょうか。

スーパー銭湯や健康ランドには、必ずといっていいほどサウナが常設されています。それほどまでに、サウナ人口は多いのです。しかし「サウナなんか使ったことない」「熱いし、息苦しいし、いったい誰が得するんだよ、あんなもの」と思っている人もまた、結構多いのではないでしょうか。

今回はそんな、ハマる人とハマらない人がくっきりと分かれてしまう「サウナ」をテーマにしたマンガをご紹介します。

みなさんは、『サ道』(パルコ)という本をご存じでしょうか? 漫画家であり、「コップのフチ子」の発案者であり、そして日本初のサウナ大使でもあるタナカカツキ先生による、サウナエッセイ&マンガです。

『サ道』は、サウナの魅力をまだ知らない人をサウナジャンキーの道へと誘う、入門書といえます。サウナと水風呂の交互のセッションワークを繰り返すことにより、突然ありえないほどの気持ちいい状態、「ニルヴァーナ状態」が訪れるという衝撃的な内容が紹介されています。そう、みんなが苦手なあの水風呂こそ、サウナトリップの秘密! というわけです。さらに現在、「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で『マンガ サ道』というコミカライズ作品が月イチ連載されており、サウナブームが静かに、そして確実に訪れているといっていいでしょう。

この『サ道』こそ、日本で唯一のサウナマンガかと思われたのですが、実はもうひとつ、サウナをテーマにしたマンガが存在していました。その名も『フィンランド・サガ(性)』

『サ道』がサウナのイメージアップをテーマにしているのに対し、『フィンランド・サガ(性)』はもっとストイックで、サウナの「殺伐とした感じ」や「重苦しい雰囲気」が表現されている作品です。

 


サウナの日本チャンピオンです

 

主人公は“プロサウナチャンピオン”本庄丈一郎。この時点で、すでに突っ込みどころ満載なのですが、全裸にフェイスタオル、そして肩にはチャンピオンベルトといういでたちで登場する、マンガの主人公としてはあまりにも斬新なキャラクターです。本庄は悩める現代人の相談役として、あるいは「耐えなければいけないことだらけ」な日常のストーリーテラーとして、サウナの中で語り続けます。圧巻なのは、あまりに誇大なサウナ名言の数々。

「ライフ・イズ・サウナ」
「私の流している汗は…スパンコールなんかじゃない…」
「耐える姿は現代人のフォークロア(民間伝承)」
「耐えることで人とつながる…それがプロサウナ」
「サウナの本質はグローバルコミュニケーション」
「いつだってそう、真実はサウナでつぶやかれる」
「サウナだけが世界を変える」
「君はレストランへ行くのに弁当を持っていくのか? 荷物はいらない…ただ脱ぎ捨てるだけ、それがサウナだ…」

 


ポエムがやたら多いチャンプ

などなど、次から次へと繰り出される意味深なポエム。ここまでいくと、名言というより、迷言レベルです。

こんな感じで、初めは人生相談スタイルだったのですが、何を思ったか、単行本2巻からは唐突に、サウナバトルへ突入。参加国78カ国、世界一のサウニストを決める地下サウナバトルが開催されます。日本代表は、もちろん本庄。ロサンゼルスからやってきた強豪サウニスト「J.D.」と一騎打ちをします。

 


文字通り熱い闘い

 

サウナの世界大会って、いったいどんなスゴいバトルなのかと思うかもしれませんが、“我慢できなくなってサウナから退場したら負け”という、実に単純明快なシステムです。ただし、プロ同士の戦いですから、サウナ内での高度な駆け引きが勝敗を分けます。

常に清く正しい潔癖なサウナスタイルを誇るJ.D.に対し、本庄は幼い頃に好きだった女の子と遊園地でデートした挙げ句に失敗して微妙な空気になった話など、切ない話てんこ盛りでJ.D.のメンタルに揺さぶりをかけます。……全然高度な駆け引きじゃないですね。酔っぱらいの居酒屋トークに近いものがあります。

3巻では、さらに新展開。若者たちの恋愛三角関係にサウナチャンピオンが割り込んできて、状況がさらにややこしくなるという、予想の斜め上を行くストーリーになっています。正直、舞台がサウナである必然性があまりありません。

 


サウナで四角関係

 

全体的に「なんだコレ!?」感がスゴいのですが、無理やりサウナに結びつける独特の世界観は、ほかのマンガでは味わえません。読み手を選ぶかなりの異色作であると同時に、ハマる人はハマる、まさしくサウナのようなマンガといえましょう。

■■■
引用)
『フィンランド・サガ(性)』
吉田貴司 / 電書バト / 講談社


タイトルとURLをコピーしました