金、女、野望、復讐……柳沢きみお『青き炎』と『DINO』に学ぶ、ダークヒーローな生き方(日刊サイゾー2015/6/22掲載)
女性にとって、結婚したい男と付き合いたい男は違う。金持ちで優しい男が結婚相手としては理想だけど、付き合うんならどこか影があって、ちょっと危険でワルな感じのする男がいい、というのが昔からの定説ですよね。もちろん、男目線で見ても憧れるのは後者のような男じゃないでしょうか。
今回ご紹介する柳沢きみお先生の『青き炎』と『DINO(ディーノ)』は、まさにそんな主人公が登場します。どちらもイケメンで高学歴、スポーツ万能という誰もがうらやむ天賦の才能を持ちながら、自らの野望達成のため、あえてドス黒い悪の道に進んでいくというピカレスク・ロマンです。
『青き炎』は、金と権力を手に入れるために徹底的に女を利用し、時には殺人も厭わない。そんなダークヒーローの一代記です。
家族でも理解不能なミステリアスな男
主人公は海津龍一という高校生。成績優秀、スポーツ万能、おまけにイケメンという三拍子そろった男子なのですが、高校では友達を作らず、部活にも所属せず、おまけに家族とも折り合いが悪く、父親に「何を考えてるのかさっぱりわからん」と見捨てられている状態。筋金入りの一匹狼です。
性格激ワルだけどイケメンなのでモテます
愛想がないので「氷のような人間」として男子からは嫌われていますが、イケメンでクールなので女子からは人気があるのです。性格が激悪でもイケメンならモテるという、実にわかりやすい事例です。
そんな龍一がどれだけ危険でワルな男なのか、ダイジェストで紹介しましょう。個人的には、絶対友達になりたくないタイプです。
高校生にしてホステスのヒモ
高校生なのにホステスを愛人に持ち、しかもその女に貢がせている。
お嬢様を虜にする魔性の男
彼女の親を脅して手切れ金をふんだくる悪党ぶり
ホステスと二股をかけて、カネ目当てで大病院の娘と付き合う。娘の父親を脅して、手切れ金1,000万円を請求。
慶応テニサーで鬼モテ
頭がいいので、ちゃっかり慶応義塾大学に合格。テニスサークルに入部して、モテモテ。
彼女をNTRされて激オコな部長
スポーツ万能すぎて1ヶ月で部長超え
入部早々、速攻で部長の彼女に手を出して部長の怒りを買い、テニスの試合でボコボコにされるが、サークルを休んでテニススクールで1カ月特訓を積み、部長にリベンジ。今度は龍一が圧倒的な勝利を収め、部長に赤っ恥をかかせてサークルから追い出します。
夜の方もしっかりデビュー
テニサーと並行して、ディスコの黒服バイトを始めます。女殺しテクに磨きがかかり、ホストやヤクザとも付き合いだして、さらにタチが悪くなります。
ラグビーは金になるという名ゼリフ
究極のお金持ち、住菱財閥のお嬢様に目をつける。お嬢様がラグビー好きと見るや、ラグビー部にサクッとくら替え。運動神経バツグンなので、すぐに大学の代表選手に選ばれる。もちろん龍一の狙いは、住菱財閥に婿入りしてカネと権力をゲットすることです。
ババアを口説いて資産乗っ取り計画
住菱財閥の婿入りが不可能と見るや、6つのビルを所有する未亡人オバさんにターゲットを変更。オバさんを言葉巧みに口説き落とし、結婚にこぎ着けた後、速攻で交通事故に見せかけて殺してしまい、念願のビルオーナーとなります。そしてババア殺しの疑いをかけてきた親戚は、ヤクザを使って脅して黙らせます。
完全に悪人の顔
資産ゲットでついに野望達成かと思いきや、その後の展開では、予想外の転落が待っているわけですが……。
「大企業の社長になれた!? ふん、それがどうだって言うんだ。しょせんサラ公じゃねーか! そんなのになって大喜びしてるヤツもしょせん三流野郎だ!」
「本当のエリートってヤツを教えてやろう。自由に生きていて、若くして成功したヤツだ。それがエリートだ」
サラ公ってあんまり言わないですよね
龍一のこんなセリフに象徴されるように、社会の歯車たるサラリーマンを徹底的に蔑み、イケメンと明晰な頭脳を徹底的に悪い方へ利用するという、バブルが生んだドス黒いアンチヒーローなのです。
一方、『DINO』は老舗デパートが舞台であり、主人公の家族を不幸に追い込んだ奴らへの復讐をテーマにした壮大なストーリーです。
不遇な少年時代が憎悪を生む
主人公の菱井ディーノは丸菱デパート7代目社長、菱井丈一郎の息子です。しかし丈一郎は、丸菱デパートの番頭格であった樽谷一族にクーデターを起こされ、追放されてしまいます。その後、丈一郎は酒に溺れて死亡、母は家を出ていき、ディーノは親戚をたらい回しにされる不遇な少年時代を送ります。
フェラーリ&復讐の人生の開幕
高校に入学したディーノは、父が遺品として、1軒の家とフェラーリ・ディーノ206GTを遺してくれていたことを知って感激し、亡き父のために樽谷一族へ復讐して丸菱デパートを取り返すことを決意します。
いわゆる殺すリスト
いきなりオープニングの「お父さん、いよいよだよ」というセリフのあと「天罰を与えるべき者」という復讐リストがドバーンと出てきます。そこには樽屋一族をはじめ、クーデターに参加した当時の重役たちの名前がズラッと並んでいます。丸菱デパートに潜入して、このリストに載っている奴らに一人ずつ復讐していこうというのです。
東大卒イケメン、動きます
復讐のため、養子先の杉野姓を名乗り、杉野ディーノとして東大を卒業後、トップの成績で丸菱デパートに入社。早速、幹部候補生となります。もちろん、イケメンでスタイルも抜群なので、デパート内の女子にモテまくり。新卒のくせに、配属された売り場内の女主任を速攻で口説く手の早さ。さすが、東大卒イケメン。
「なにもこんな30にもなったオバさんを抱かなくても、キミならいくらでもいるでしょ」
「ふう、僕はアナタくらいの年上の人が好きなんだ」
ふう、じゃねーよ
甘いピロートークで、女主任から丸菱デパートの内部事情を夜な夜な聞き出します。もちろんこの女主任は、ディーノが復讐するための情報源にすぎません。そして主任から得た情報を元に、矢継ぎ早に復讐を実行していきます。
やってる間にやられる男
最初のターゲットは曽根崎専務。専務に復讐する足がかりとして、コネ入社の息子・曽根崎フロア長を狙います。深夜のオフィスで女子社員とエッチする性癖のある曽根崎フロア長を背後から襲い、素っ裸のまま縛り上げ、翌朝フロア中の晒し者に。
追い打ちのメンタル攻撃
息子の失態により、流通センターに左遷された曽根崎専務。しかし、ディーノの怒りはその程度では収まりません。追い打ちを掛けるように流通センターへ忍び込んで、放火するディーノ。曽根崎専務はショックで心筋梗塞を起こし、再起不能に。そう、これがディーノ流の天罰なのです!
デスノートより怖い
2人目のターゲットは登戸副社長。登戸には溺愛する一人娘・恵がいます。ディーノは松野という偽名で恵に接近し、口説き落とします。そう、東大卒イケメンなら、どんなにうさん臭い偽名でもナオンを口説けるんです!
ターゲットの娘を狙うヤ◯ザなやり口
自宅に呼び寄せ、酒でベロベロに酔わせた恵の裸体を撮影。その写真を登戸副社長宅に送りつけます。登戸は怒りのあまり、朝帰りの娘の首を絞めて殺してしまい、そのまま失脚です。天罰……怖すぎですね。
パパ絶望のシーン
このようにディーノは女から得た情報を元に、ターゲットのウィークポイントを徹底的に突く、ヤクザ顔負けの発想で冷徹に復讐を実行していきます。なんというガチすぎる復讐。東大卒イケメンのくせに、とんだ大悪党です。
確実に仕留めていきます
この先も、ラスボスである樽谷会長を目指して着々と復讐を敢行していくのですが、ツッコミどころも豊富な作品です。
だいぶ後半でいまさら!?
まず気になるのが、主人公の菱井ディーノというキラキラネームっぷり。名字を変えて杉野ディーノになっているので、先代社長の息子だとはバレていない、という設定なのですが、そもそもディーノっていう名前が個性的すぎて、普通にバレるだろという気がします。しかし作品の後半になるまでそのキラキラネーム問題はスルーで、散々復讐しまくった「え、今さら?」というタイミングで、ディーノという名前は目立つからマズい……となり、杉野一郎へと強引に改名します。一郎って……急に変えすぎだろ!
随所に盛り込まれるフェラーリポエム
そのディーノという名前は、ディーノの父親・丈一郎の遺品でもあったフェラーリ・ディーノ206GTから取られているのですが、息子にスーパーカーの名前をつけるという発想もすごいですよね。そんな作品なので、本編の復讐ストーリーとは関係なく、柳沢きみお先生のフェラーリ偏愛ぶりが遺憾なく発揮されています。作品中にまったく脈絡なく「フェラーリの名車たち」というミニコーナーが割り込んできたり、「この車は男が一人で走らせるためにある。この車は男の汗だけを求める」みたいな、イケてるフェラーリポエムが突然挿入されたりするのも特徴となっています。特にフェラーリに興味がない人には読んでいて違和感がすごいのですが、これが逆にクセになってくるのです。
復讐劇を読みながらフェラーリにも詳しくなれる
こんな感じで、最初から全力で悪の道を行く『青き炎』と、復讐という大義名分がありつつも結局人を殺しまくる『DINO』。対照的な2作品なのですが、どちらもダークな主人公を軸としたストーリーがとてつもない面白さで、やっぱりクールでワルな男の生き様はどこまでいっても魅力的なのだ、ということを証明してくれています。今さらながらJ君も、『LEON』あたりを熟読してクールなワルを目指さなければ、と思うようになりました。まあ、真似すると間違いなく捕まるんですけどね。
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出典・引用)
「青き炎」 柳沢きみお / 小学館 / ゴマブックス
「DINO」 柳沢きみお / 小学館 / ゴマブックス