「孤独のグルメ」 原作マニア向け企画 単行本で修正された名ゼリフのビフォーアフター

 

「タコ・・・ノータコ、タコハダメデス」
こんにちは、銀だこが好きっていうと大阪の人に怒られるらしいので黙っているJ君です。
当サイトで過去に何度も紹介してきた「孤独のグルメ」の原作マンガ。2017年に谷口ジロー先生が亡くなられて未完の名作となりましたが、そのスピリットは松重豊さん主演の「孤独のグルメ」ドラマ版に引き継がれており、シーズン9も2021年7月から始まります。楽しみですね。

ところで、原作マンガ「孤独のグルメ」は「月刊PANJA」で1994年から1996年まで連載されていたものと、「SPA!」に2008年から2015年まで不定期連載された「孤独のグルメ2」が存在しますが、今回は皆さんの馴染み深い最初の原作「孤独のグルメ」から、「月刊PANJA」掲載時と単行本で違っているセリフのビフォー・アフターを比較してみようという、重箱の隅をつつくようなマニア向け企画です。

 


特に有名なセリフではありません

 

ちなみに冒頭の「タコ・・・ノータコ、タコハダメデス」は特に有名なセリフでもなんでも無く、通行人の外国のおっさんが回転寿司に入店する前のセリフですが、このレベルのマニアックなやつがバンバン出てきますので、こちらこちらのレビューをあらかじめ読んでおいていただくことをオススメします。

 
 

■おうヤマさん いっしょにメシ食うべえよォ

第1話 東京都台東区山谷のぶた肉いためライス より

 


トメがヤマさんに・・・一体何があった

 

上がPANJA掲載時のセリフで下が単行本で修正されたセリフとなっています。
いきなりどうでもいいシーンで恐縮なんですが、よく見ていただくと、人物名「トメ」が「ヤマさん」になっていたり、最後に「メシ食うべえよォ」という訛りが加えられていたりして、なかなか激しい修正がなされている1コマです。

なぜ「トメ」が「ヤマさん」になったのか・・・その理由は想像するしかありませんが、トメだとバアちゃんぽいとか、福留アナからクレームが入ったとか、そういった事情があったのかもしれません。もしくはヤマの部分が名字で、トメが名前・・・つまり山本留夫だった可能性も考えられます。そして山谷というワケありな土地にふさわしく、どこか北関東っぽい郷愁が漂う「べえよォ」という語尾が付け加えられたのでしょう。うん、我ながら全く意味のない考察をしている自覚があります。

 
 

■しかし結局この店の中で食う客ってのはほとんど飯より酒の客なんだな

第1話 東京都台東区山谷のぶた肉いためライス より

 


吐き捨てるような旧セリフが気になる

 

左がPANJA掲載時のセリフで右が単行本で修正されたセリフとなっています。
旧セリフでは吐き捨てるように「飲みまくってるんだな」と言っています。下戸であるゴローちゃんの酔っぱらいに対する毒が思わず出てしまったのでしょうか。単行本ではクールなゴローちゃんのセリフに軌道修正されていますが、こっちのほうが確かに本来のゴローちゃんのイメージに近いような気がします。どちらにしても相当細かい部分まで修正されているのが分かりますね。

 
 

■家族はこんなオカアサンを全然知らないのかもしれない

第2話 東京都武蔵野市吉祥寺の回転寿司 より


なんでカタカナにした?

 

上が旧セリフで下が新セリフとなっています。
「孤独のグルメ」の中でもかなり長いセリフの部類だと思うのですが、後半部分がなんとなく色気のある雰囲気に変更されていますね。昼間はダンナや子供が知らない別の顔を持つオカアサン・・・あえてカタカナにしたところがなんとなくエロティックじゃないですか?まあ実際は、おばさんが回転寿司のタイムサービスで大トロ食べてるだけなのでエロくともなんとも無いんですけど。

 
 

■ジェットのせいで歯車がズレたか・・・

第6話 東京発新幹線ひかり55号のシュウマイ より

 


ジェットは今は売ってない

 

上が旧セリフで下が新セリフとなっています。
孤独のグルメを代表する有名ゼリフ「ジェットのせいで歯車がズレたか・・・」のシーン。崎◯軒の温めるシウマイ通称「ジェット」を買って新幹線の中で温めたところ、車内にシウマイのニオイが充満して他の客にヒンシュクを買ってしまったのを皮切りに、お茶を買いに行こうとしたら通路側の女性客が寝ていて出られなかったり、タバコを吸ったら子供がいるので遠慮してくれと言われたり・・・と次々に間の悪い出来事が発生してしまって思わずでたセリフですが、実は雑誌掲載時は別のセリフだったんですね。

「ジェットじゃないよなあ・・・」
これだと、ただジェットを買ったことを後悔しているだけの浅いセリフに感じられます。その後のいろんなボタンの掛け違いアクシデンツも含めると「歯車がズレた」と言う表現が適切ですね。なんか現国テストの添削をやっているような恐ろしく上からの発言をしてしまっている気がするのですが、何が言いたいかというと、みんな人生において歯車がズレることってよくあるよね?ということです。

 
 

■うんうまい肉だ、いかにも肉って肉だ

第8話 京浜工業地帯を経て川崎セメント通りの焼き肉 より

 


肉の定義とは

 

左が旧セリフで右が新セリフとなっています。
作品中でも印象深いセリフの多い、いわゆる「焼肉回」ですが、セリフの微調整が多い回でもあります。つまり孤独のグルメの名ゼリフ伝説はこういった微調整の繰り返しによって生み出されたといっても過言ではないのです。

「確かに肉だ」から「いかにも肉って肉だ」への変更、これが意味するものは・・・もしや世間を騒がせた偽装牛肉事件への配慮なのか?「確かに肉だ」だとまるで牛肉であること自体を疑っているように聞こえます。それはあまりに焼肉店に失礼というもの。しかし「いかにも肉って肉だ」であれば、ゴローちゃんの求めている理想の肉に近いものが出て来た!という内なる喜びの表現に聞こえてきますよね。ちなみに偽装牛肉事件は2000年に入ってからだったので関係ありませんでした。

 
 

■焼肉といったら白い飯だろうが

第8話 京浜工業地帯を経て川崎セメント通りの焼き肉 より

 


ゴロー怒りの焼肉

 

左が旧セリフで右が新セリフとなっています。
これもほんの微調整に過ぎませんが、「が」というたった一文字が追加されるだけで破壊力がぜんぜん違うという例でもあります。

「焼肉といったら白い飯だろう」から「焼肉といったら白い飯だろうが」に変わるだけでゴローちゃんのイライラ度が5割増ししている気がしませんか?

なにしろ酒が飲めないゴローちゃんにとって白米は焼肉における生命線とも言えるアイテムです。ご飯のない焼肉はカラメルソースの無いプリン、もしくは生ハムのないメロンに匹敵するほどに重要なことなのです!(事例が適切じゃなさすぎて伝わらない)

 
 

■うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ

第8話 京浜工業地帯を経て川崎セメント通りの焼き肉 より

 


突き抜けることで名ゼリフになる

 

左が旧セリフで右が新セリフとなっています。
旧セリフだと「俺はまるで人間火力発電所か・・・」という戸惑いと葛藤を感じさせます。焼肉食ってついテンション上がって、俺は人間火力発電所だぞ!ジョジョォー!って言ってしまいそうな気持ちがあるのに、つい気恥ずかしくて中途半端に感情を抑えてしまうという大人の悪い癖です。その点、新セリフは突き抜けてますね。恥も外聞もかなぐり捨て、我こそが火力発電所だと言い切るための枕詞が「うおォン」なのであります。

 
 

■やっぱりこういうとこで食うものに文句言っちゃいけないぜ

第9話 神奈川県藤沢市江ノ島の江ノ島丼 より

 


いちいちガッカリしない

 

左が旧セリフで右が新セリフとなっています。
観光地の食い物ってアホみたいに高くて、たいして美味くなくて・・・ガッカリすることが多いのはみなさんもご承知のとおりだと思うのですが、そういうのを分かってて来てるんだからいちいちマズイの高いの言うのは野暮ってもんだ!という、まっとうなご意見をよりハードボイルドな感じに言ってるのが新セリフですね。ひとり飯を数多くこなし、数多くのガッカリ飯を体験し、遂にたどり着いた境地といった感じです。

 
 

■季節はずれの海とトンビの群れ・・・か、さえない思い出の脇役にピッタリかもしれん

第9話 神奈川県藤沢市江ノ島の江ノ島丼 より

 


遠い目をするゴロー

 

上が旧セリフで下が新セリフとなっています。
ゴローちゃんの恋愛がらみのエピソードといえば、永遠の恋人「小雪」の存在がありますが、珍しく小雪以外の元カノエピソードを語るのがこの回です。その元カノとは速攻で破局。現在ナカムラのカミさんで一児の母になっているという、ちょっと苦くて酸っぱい思い出というわけです。新セリフは、そんなさえないエピソードと季節はずれのトンビの存在を結びつけた哀愁漂うセリフになっています。ちなみにナカムラが何者なのかは結局分かりません。

 
 

■おでんとメロンソーダってのは色彩的に最悪の組み合わせだな

第11話 東京都練馬区石神井公園のカレー丼&おでん より

 


あくまで色彩がね

 

左が旧セリフで右が新セリフとなっています。
その昔ワニ出現騒動があったことでも有名な石神井公園のお食事処で、おでんにチ◯リオのメロンソーダを組み合わせるゴローちゃん。「ワザとらしいメロン味」と毒づいたかと思いきや、間髪入れずこのセリフです。メロンソーダに親でも殺されたんでしょうか。しかしさすがに「最悪の組み合わせ」はディスりすぎだと思ったか、新セリフでは「色彩的に」とフォローを入れてきました。でもまあ、どっちにしてもおでんとメロンソーダの組み合わせはセンスなさすぎだと思いますよ。組み合わせたのは他ならぬゴローちゃんだけど。

 
 

■うん!これこれ!

第11話 東京都練馬区石神井公園のカレー丼&おでん より

 


This one!

 

上が旧セリフで下が新セリフとなっています。
おでんとメロンソーダの組み合わせをひとしきりディスった後は、追加で頼んだ本命、カレー丼の登場です。大事なのは「カレー」ではなく「カレー丼」だということ。そこにはグリンピースの存在が必須であり、カレーの色は無駄に黄色みが強く、肉は鶏肉である必要があるのです。これら諸条件が揃い、まさにゴローちゃんの求めるものと完全一致した時の「うん!これこれ!」なのです。「うまい」だけではリアクション不足なのです。

 
 

■腹もペコちゃんだし夜食でも食ってひと息つくか

第15話 東京都内某所の深夜のコンビニ・フーズ より

 


ゴローもただのオヤジだったか

 

左が旧セリフで右が新セリフとなっています。
あちゃー、とうとう言ってしまったかというオヤジゼリフ「腹もペコちゃん」。ダンディでハードボイルドなゴローちゃんのパブリックイメージを崩壊させかねないセリフですが、元々はもっと普通のセリフだったのに、あえて修正してまでオヤジギャグをねじ込んできたその真意は・・・?不◯家のステマかな?(彼氏はポコちゃん)

 
 

■ソースの味って男のコだよな

第17話 東京都千代田区秋葉原のカツサンド より

 


男子ならソース味

 

上が旧セリフで下が新セリフとなっています。
ソースの味って男のコ・・・全然意味がわからないようで、なんとなく分かる気がする。そんな絶妙すぎる名ゼリフも元々は違うものだったんですね。スパイシー=男性っぽいみたいなことなんでしょうか。ちなみに「ソースの味って男の娘だよな」だと全然意味が変わってきてしまうので間違えないように注意したいところですね。

 
 

■建て変えられたんだァ、あのオンボロがよかったのに

第18話 東京都渋谷区渋谷百軒店の大盛り焼きそば&餃子 より

 


勝手に建て替えんな!

 

上が旧セリフで下が新セリフとなっています。
久しぶりに来た渋谷のラーメンの名店が真新しいビルに建て替わっていてガッカリするゴローちゃん。普通の客ならキレイになったことを喜びそうなものですが、年季の入った雰囲気を重んじるゴローちゃんはそうではありません。なんとも面倒くさい男ですね。旧ゼリフ「あんなにオンボロだったのに」だけだとゴローちゃんのこの面倒臭さが伝わりきらないため、「あのオンボロがよかったのに」に変更されたものと思われます。むしろオンボロじゃなきゃダメなんです。いつも心に「きたなシュラン」を。そういうマインドが大切なんですね。

 
 

■俺ってつくづく酒の飲めない日本人だな・・・

第18話 東京都渋谷区渋谷百軒店の大盛り焼きそば&餃子 より

 


下戸の憂鬱

 

上が旧セリフで下が新セリフとなっています。
孤独のグルメ1巻のラストを飾る、孤独感MAXのこの名ゼリフも変更されています。めちゃくちゃうまい餃子を出す店なのに、メニューにライスはない。餃子はビールで流し込め、そういうスタンスのお店なので下戸のゴローちゃんには酷すぎる・・・そういう心象風景を語ったセリフです。旧セリフでは単純にご飯がないことを嘆くゴローちゃんですが、もっと深いレベルで「つくづく酒の飲めない日本人」と表現するのはもはや文学と言えますよね。このゴローちゃんの下戸ポエムについては別の企画で特集したいと考えています。

というわけで、孤独のグルメのドラマシーズン9を記念した超マニアック企画、「孤独のグルメ」のセリフのビフォーアフターをご紹介しました。まだまだたくさんの変更点があるのですがご紹介しきれませんでした。こちらのブログでは紹介しきれなかったものも網羅されていますので、さらにディープな世界を覗いてみたい人は是非どうぞ。ここまでいくともはや写植屋さんレベルになってきます・・・。

 

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出典)
「孤独のグルメ」 「孤独のグルメ2」 久住昌之/谷口ジロー/扶桑社

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