オトナ男子に読んでほしい、禁断の“変態少女マンガ” 岡田あーみん3部作のススメ(2015/3/11日刊サイゾー掲載)
岡田あーみんという少女漫画家をご存じでしょうか? 現在30代の女性であれば知っている人は多いかもしれませんが、男性は意外と知らないかもしれませんね。
あーみん先生は1983年にデビューし、集英社の少女マンガ誌「りぼん」に『お父さんは心配症』 『こいつら100%伝説』 『ルナティック雑技団』という、いわゆるあーみん三部作を連載。カリスマ的人気を誇った後、忽然とマンガ界から消えてしまった伝説の漫画家です。『お父さんは心配症』連載当時は、同じ「りぼん」の『ちびまる子ちゃん』と共に2大少女ギャグマンガとして君臨し、その後、テレビドラマ化されるほどの人気を誇りました。
『お父さんは心配症』
主人公は、女子高生の典子の父、佐々木光太郎。典子がまだ幼い頃に妻と死別しており、男手ひとつで娘を育てているシングルファーザーです。この光太郎(通称パピィ)こそが、あーみん作品を特徴付ける変態キャラのルーツなのです。
典子には同級生の北野くんというボーイフレンドがおり、典子と北野くんの交際を心配性すぎる光太郎が、あらゆる手を使って妨害するというのがこの作品の基本ストーリーです。娘の異性交遊を心配するのは、父親としてごく当然の心理であるかのように思います。しかし、その妨害の仕方が想像を絶しており、今の時代なら家庭内ストーカー状態で接近禁止命令が出されてもおかしくないレベルなのです。
娘が心配すぎる変態パピィ
典子に対しては、電話を盗聴する、門限に30分遅れると警察に捜索願を出す、デートを尾行するなどは日常茶飯事。ボーイフレンド北野くんへの攻撃はこんなものでは済まされず、「北野」と書いたわら人形に五寸釘を打ち込む、斧で斬りつける、木に縛りつけて弓矢で狙う、バスガイドに女装して部活の合宿に潜入する、アパレル店員に変装しマネキンの足で殴る、背中を工事用ドリルで突き刺す……。
常に猟奇殺人一歩手前
などなど、常に血しぶきが飛び交う容赦ない妨害工作が行われます。こうしてテキストで書くとまるでホラーマンガのようですが、もちろん完全なるギャグマンガです。しかし間違いなく、ある種の狂気も感じられます。このギャグと狂気の織り成すコンビネーションは大人が読んでもすさまじいと感じるので、子どもの頃にリアルタイムで読んでいた現在30~40代の女性には、さぞや強烈な体験だったことでしょう。
『こいつら100%伝説』
タイトルからは内容がまったく想像できませんが、忍者3人組が主人公のギャグマンガです。多少ラブコメ要素のあった『お父さんは心配症』に対して、設定を戦国時代の忍者物にしたためか、ギャグ方面がさらにレッドゾーン振り切ってる感じでキレッキレに研ぎ澄まされており、分かる人には超わかるが、理解できない人にはまったく理解できないギャグマンガの境地に入っている作品です。
見習い忍者たち
ストーリーは白鳥城のお姫様・姫子を守る3人の見習い忍者と、そのお師匠様によるドタバタコメディです。3人の忍者は、クールだけど超自己中でサディスティックな極丸(きわまる)、ナルシストで奇抜な変態キャラの危脳丸(あぶのうまる)、かわいらしい見た目で意外とやってることがエグい満丸(まんまる)というキャラ付けがされています。
途中からテコ入れキャラ(?)としてなのか、「ターミネーター」なるデューク東郷顔の殺人サイボーグが突如レギュラーキャラとして参入します。戦国時代なのにターミネーターという、ストーリーの脈絡のなさも本作品のなんでもアリ具合を象徴しています。
変態ギャグの登場頻度は、前作の『お父さんは心配症』を上回るハイペースです。
大量の変態ギャグ
「ハーフわき毛日本一」
「すみません、ぼくのおちちはおでこにあるんです」
「今日も元気に男好き!! はーっあっ!男好きったら男好き!!」
「要するにおまえがちちさわり魔か?」
「墓石だるま落とし、墓石ドミノ」
「マスター作ってくれよぉ、涙忘れるカステラ」
「鬼頭オパーリン」
……等々、ここで字面だけ書いたところでさっぱり意味がわからないかと思いますが、かといって実際のコマを見たところでやっぱりよく意味がわからないという、奇妙奇天烈なギャグ三昧のマンガです。結局、何が100%なのかもよくわかりません。
『ルナティック雑技団』
あーみん三部作の最終章となる『ルナティック雑技団』では突然、画のテイストがグレードアップして、まるで少女マンガのようになりますが、それはあくまで見た目だけ。やはり少女マンガの皮をかぶった、変態ギャグマンガでした。少女マンガ風の画柄で一瞬油断させられるだけ、逆にタチが悪いです。
本作品のヒロインは星野夢実。両親が海外出張となったために、父の部下である天湖(てんこ)家に下宿することになります。
天湖家には、夢実が通う学園のプリンスであり、孤高の貴公子といわれるスーパーイケメン、天湖森夜(もりや)が住んでおり、憧れの森夜と夢実による一つ屋根の下のあま~いラブコメディになる……かと思われたところが、岡田作品にそんな少女マンガの一般常識は通用しません。
そこに立ちはだかるのは、森夜の母親、ゆり子(通称:マダムゆり子)。この女こそ佐々木光太郎の女版であり、あーみん三部作の中でも群を抜くレベルの変態キャラなのです。
マダムゆり子は、溺愛する森夜と夢実がいい仲になるのを徹底的に妨害します。その一つ一つのセリフがまた狂気を帯びています。
狂気のキャラマダムゆり子
「ご上司さまのご令嬢さまがこんな むさくるしい所にようこそ。わたくし天湖とつがいになっておりますゆり子でございます」
初めはこんなセリフで夢実を丁重に迎え入れるゆり子。まあ、この時点ですでに人として何かがおかしいセリフですが。夢実と森夜が接近しだすと、すぐにタガが外れたように狂気のセリフを連発。
「出てけーめぎつね このいら草でおいはらってやるー」
「思春期から発情期へ通じるけもの道をなんとかなんとか寸前で禁猟区よ!!」
「あの女は魔性の女…男をまどわす夢食い妖婦(バンプ) 少女の仮面の下は獣盛りの東洋毒婦」
「よくもうちの息子を そのイヤらしいひとさし指で なぶり いたぶり もてあそんでくれたわねェ」
ほぼ妖怪
……仮にも、夫の上司の娘へ向けて話す言葉とは到底考えられないレベルです。もちろんマダムゆり子のほかにも、
濃すぎる学園のアイドル・ルイ様
「学校なんかやめちゃってデカダン酔いしれ暮らさないか、白い壁に『堕天使』って書いて!?」
みたいな「特攻の拓」もビックリの中二病あふれるイカしたセリフを吐く愛咲ルイや、
「その生意気なセーラー服と大人を軽蔑しきった白いソックスがどんなに私をイライラムラムラさせているかわかってらっしゃいますか お嬢様」
……みたいなセリフで、ダンディなルックスながら下ネタを連発する執事・黒川など、魅力的な変態キャラが多数登場します。変態キャラ選手層の厚さではV9時代の読売巨人軍に匹敵するレベルのマンガなのですが、圧倒的な妖気を漂わせる変態主婦、マダムゆり子こそがやはり最強であると主張しておきます。
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というわけで、一部の女子にカルト的な人気を誇る岡田あーみん三部作の見どころを、オトナ男子目線でご紹介しました。
私見ではありますが、オトナ男子が初めてあーみんワールドに触れるなら、やはり一見少女マンガ風でおとなしめの『ルナティック雑技団』から読んでみることをオススメします。この作品で少し慣らし運転してから、よりディープで危険な香りのする『こいつら100%伝説』『お父さんは心配症』 へと読み進めていくことで、心身へのダメージを最小限にしつつ、変態少女マンガの世界にズブズブと入り込んでいくことができるでしょう。そして、あなたもいつしか、「あー民」と呼ばれるコアなファンになってしまうかもしれません。
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引用)
『お父さんは心配症』
『こいつら100%伝説』
『ルナティック雑技団』
岡田あーみん / 集英社