日本最強サラリーマン『島耕作』 その出世遍歴を振り返る

日本最強サラリーマン『島耕作』 その出世遍歴を振り返る(2017/10/13日刊サイゾー掲載)

   突然ですが、みなさんは出世してますか? 僕はしてません。それはともかく、僕らの思い描く、 サラリーマンが「出世」するマンガといえば、やっぱり『島耕作』シリーズですよね?

1983年に「週刊モーニング」(講談社)で連載がスタートした『課長 島耕作』は、派閥にも属さず、自分の信念を貫く、日本一カッコイイ中間管理職を描いたマンガとしてサラリーマンの熱い支持を得てきた作品ですが、約10年間課長を務めた後、ついに部長に昇進、 92年からはタイトルが『部長 島耕作』となります。

その後は中間管理職の象徴ではなく、エグゼクティブコースに乗ったサクセスストーリーマンガとして『取締役 島耕作』『常務 島耕作』『専務 島耕作』『社長 島耕作』と上り詰め、これで終わりかと思いきや、まさかの『会長 島耕作』がスタートして今に至ります。

さらに、過去の時代への回帰も行われており、『ヤング 島耕作』『ヤング 島耕作 主任編』『係長 島耕作』、そして大学生時代の『学生 島耕作』までさかのぼっています。もはや野口英世や夏目漱石以上に詳細な自伝が描かれ、いつお札に印刷されてもおかしくないレベルなのですが、とにかく派生作品が多すぎるので、これから読む人のために、それぞれのタイトルを島の人生の時系列に沿ってご紹介してみましょう。

■『学生 島耕作』

早稲田大学を受験するため、山口県岩国市から上京した学生・島耕作。当時、学生運動が盛んだった早稲田で、下見の最中に活動家と間違えられて機動隊にボコられたり、入学後はタコ部屋学生寮の先輩と一緒に風俗に行ってボッタくられたりと、なかなかの青春ド真ん中っぷりです。

ハイライトは、高校時代からのペンフレンドでタレントの卵、三沢淳子との童貞喪失シーンです。道を歩くだけで女が寄ってくるモテの化身・島耕作にも、童貞時代があったというのが驚きですね。てっきり、生まれた直後から非童貞だと思ってました。

■『ヤング 島耕作』

新入社員の島を描く『ヤング島耕作』。本人の望み通り、大企業・初芝電産に入社できた島が、若さに任せて大ハッスル。

研修として、ハツシバショップで販売実習をすることになる島。そこの従業員が 不用品を不法投棄するシーンを見かけ、正義感が爆発してガツンと言ってやったのはいいが、その報復として実習先での勤務評価を最低ランクにされてしまうピンチに陥ります。

そこへたまたま通りかかったのが、まさかの神、初芝電産の吉原会長。「お前は正しいことを言っている!」と会長の覚えもめでたく、研修後の評価は最高グレードで、見事に希望の宣伝部配属ゲット。やはり島耕作、新入社員の時から「持ってる」男でした。

女関係では、言い寄ってきた同僚をヤッちゃった後に、その女が会社に産業スパイとして潜り込んでいた左翼活動家の女だったことを知ったり、社員寮のルールを破って無断外泊しまくりで上司に呼び出され、開き直って「好きな女とセックスしてました」と堂々と答えたり、若気の至りがあふれ返っているヤング時代なのでした。

■『ヤング 島耕作 主任編』

ヤングだけど、主任……つまりは、若手のエースとなった島。主任になったために部下ができたのですが、よりによって新しく配属された部下・亀渕雄太郎が、アメリカ帰りの新人類で大物デザイナーの息子という、初芝のお偉いさんも逆らえない、たいそう厄介なヤカラなのです。

アメリカ的個人主義を徹底し、日本企業になじもうとしない亀渕に対し、人情を大事にするニッポンのサラリーマン代表、島が激しく叱責。しかし、亀渕の親のコネが強力で、逆に島が専務に怒られるありさま。

女関係では、島の最初の妻となる岩田怜子が大活躍。『課長 島耕作』では最初っから夫婦関係が冷え切っていて浮気しまくりモードの島ですが、この時代の怜子は島が惚れるのも納得の、実にデキる女です。

レストランでの食事の予約を入れるも、突然の深夜作業でドタキャンしてしまう島。しかし、家に帰ってくると、レストランのフルコース料理をお持ち帰りにして、テーブルにきれいに並べて待っている怜子の姿が。

そして「しょうがないわよ、仕事よりデートを優先する男がいたら、そんな奴逆に信用できないわ」のセリフ。彼氏の仕事に理解のある、実にいい女ですね。

■『係長 島耕作』

係長になって早々、上司の遠馬課長が末期のすい臓がんであることが発覚。会社の命令により、本人には知らせず奥さんに告知するという、いきなりハイレベルなミッションを課された島。

しかも、入院している課長は課長で、奥さんのいない隙に、行きつけのバーのホステスである愛人を見舞いに来させろという、さらにややこしい指示を出してきます。こんな嫌な業務命令ある?

課長の他界後、愛人の存在に薄々気づいていた奥さんが、その愛人に会わせろと島に詰め寄るという修羅場に陥ります。これぞまさに貧乏くじ。っていうか、明らかに係長の業務のレベルを超えてますよね。

■『課長 島耕作』

島耕作シリーズの原点が、この『課長 島耕作』です。課長時代の活躍があったからこそ会長にまで出世できたということで、読んでみると、歴代の中でも実は女関係が一番鬼畜なのも、この課長時代といえます。

態度の悪い新人女性社員にガツンと言ってやるべく、晩飯に誘う島。しかし、完全に彼女にペースを握られ、飲んでカラオケに行った後、ラブホにしけ込んで結局ヤッちゃいます。その後、女性社員にガツンと言うどころか、会社や妻にバラされ、家庭を壊されるのではないかとビクビクしていた島でしたが、その女が結婚して辞めることになり、ギリギリセーフだった話とか……。

部長命令で「博通広告賞の大賞をなんとしてでも受賞しろ」というムチャ振りを受け、博通の審査員の男に頼み込んだところ、「スワッピングパーティーに参加することが条件」と言われる島。結局、その男の嫁を抱くハメになったのですが、島の嫁・怜子と大学の同級生だったことが発覚して、大ピンチみたいな話とか……。

行きずりでヤッちゃった女にピンチを救われたり、ヤッた女が実は仕事上のキーマンだったり、みたいなパターンも異常に多く、それがきっかけで社内での評価をガンガン上げていく島。日本のサラリーマンを代表する男にしては、能力が特殊すぎます。

■『部長 島耕作』

部長以降の島は、無事、怜子との離婚が成立し、独身貴族に。女関係は本命セフレの大町久美子が中心ではありますが、相変わらず女にモテまくりです。

総合宣伝部長の島なのですが、中沢社長の友人が企業乗っ取りの危機に遭っているということで、会社を救うための特命を受けることになります。いわゆるM&A案件です。まったく畑違いの仕事でも、柔軟かつ颯爽と、ビシッとこなす。さすがは仕事がデキる男。その後はフランスに行ってワインの買い付けをしたり、ニューヨークで自分の隠し子を歌手としてプロデュースしたりと、一体なんの部長なんだ……。

■『取締役 島耕作』『常務 島耕作』『専務 島耕作』

正直、このへんは取締役と常務と専務の時代の違いがよくわからず、ストーリーがごっちゃになりやすいのですが、取締役時代は島の上海進出がテーマになり、常務時代は中国全土を担当するようになり、専務時代には東アジアおよびアメリカ担当ということで、ワールドワイドな展開が続きます。コマ当たりの説明セリフの密度も上がり、文字だらけのシーンが多く、まるでビジネスマンガのようになります(もともとビジネスマンガですが……)。

しかし、肝心の初芝自体は、業績ダダ下がり。カルロス・ゴーンみたいな郡山社長の下、超リストラ断行モードで、ド派手だった課長時代に比べると、冬の時代といった感じ。

女関係はビジネス同様、ワールドワイドに手を広げ、中国人秘書、中華料理店のママ、米国法人の金髪秘書、インドの大物女優などなど、オッサンになってもモテが止まりません。インドの大物女優とのキスシーンをフライデーされて、敵対する副社長派に吊るし上げられたりなど、業績は冬なのに、女関係は相変わらず夏真っ盛りといった感じです。

■『社長 島耕作』

前社長が憎まれ役を買って出て、大リストラをやってくれたおかげで、会社の膿を出し切り、最高においしいタイミングで社長になった島。

パナソニックが三洋電機を子会社にしたように、初芝電器も五洋電機と経営統合。松下電器がパナソニックになったように、初芝五洋ホールディングスも「テコット」に改名というリアルとシンクロする感じのストーリーがグッときます。

女関係では、社長秘書である和菓子店のお嬢様・南村彩、オヤジ殺しの多田かおり、ヌンチャク使いの神奈川恵子という、仕事がデキるだけでなく一芸に秀でている3人の社長秘書たちが、いかに他を出し抜いて社長の好意をゲットするかという三つ巴バトルや、25年間付かず離れずの関係だったセフレの久美子と、ついに観念して結婚するところなどが見どころです。

■『会長 島耕作』

巨額の赤字を出した責任を取ってテコットの社長を辞任し、会長に就任した島。今まで、年齢に比して異様なまでの若々しさを保ち、それゆえモテモテだったわけですが、会長編では一気に枯れた感じを醸し出します。

ストーリーとしては、ついに財界の大物デビューを飾った島が、経団連みたいな感じの「経済連」に入ったかと思えば、上層部と考えが合わず、揉めたりします。ビジネスのスケールもいままでよりも大きく、日本の国益がテーマとなり、農業や漁業、さらには日本酒造りなど、予想もしなかった方向に進出します。

また、島の専任秘書として登場した三代稔彦は、カミングアウトしたゲイという設定で、イケメンが出てくるとすぐに口説こうとするなど、やたらとゲイ関連の話が出てくるのも特徴的です。こちらは現在も連載中の作品なので、今後の展開に期待しましょう。

■この後の展開を予想してみる

ビジネスマンとしての頂点である会長まで上り詰めてしまった島なので、どうしても、その先の役職は限られています。『相談役 島耕作』『名誉会長 島耕作』あたりなら、まだイケますが。もしビジネスマンとしての役職にこだわらなければ、『総理大臣 島耕作』『国連事務総長 島耕作』『老後 島耕作』『遺骨 島耕作』などもイケそうです。

ちなみに、島の再婚相手、久美子のアブノーマルな女子高生時代を描いた読み切り『JK大町久美子』や、島が殺人事件に巻き込まれて探偵になる『島耕作の事件簿』の連載が始まっているので、今後はこのような変化球路線が中心になるという可能性も考えられます。

また、ヤング方面の作品では、大学生時代の『学生 島耕作』に加え、読み切りの『少年 島耕作』で高校時代を消化してしまっているため、残りは『中学生 島耕作』『小学生 島耕作』『園児 島耕作』『幼児 島耕作』『赤子 島耕作』『胎児 島耕作』あたりが考えられます。さらに『君の名は。』とのコラボが実現すれば『前前前世 島耕作』というのもあるかもしれません(ないか……)。

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