宗教二世の苦悩、毒親マンガ『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』

宗教二世の苦悩、毒親マンガ『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』(日刊サイゾー2019/11/25掲載)
  

  

「毒親」という言葉をご存じですか? 過干渉や暴言・暴力などで、子どもを思い通りに支配したり、逆に子どもの世話を一切せず放置したりする親のことを指す言葉です。マンガの世界でも近年「毒親エッセイマンガ」が増えてきました。『母がしんどい』(田房永子/KADOKAWA、中経出版)、『酔うと化け物になる父がつらい』(菊池真理子/秋田書店)、『無敵の毒親~私は母のサンドバッグ~』(たもん、はるな/WコミックスZR)、『お母さん、あなたを殺してもいいですか?』(作画 秋本尚美、シナリオ 新田哲嗣/ジャンプルーキー)などなど、衝撃的なタイトルが並びますが、読んでみるとタイトル以上に衝撃的な内容だったりするので油断なりません。

化け物だったり、サンドバッグにされたりと毒親のタイプにもいろいろあるようですが、今回ご紹介するのは、その中でもとりわけ特殊なタイプの毒親マンガ『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』(ヤングマガジンコミックス)です。もうこの遠回しなマンガタイトルを聞いただけでも、なんのことを言ってるのかピンとくる人がいるかもしれません。

本作は、いしいさやさんが某宗教の二世信者として母親や周りの信者から四六時中監視され、厳しい戒律のために友達や恋人も作れず、娯楽も与えられず……というつらすぎる経験をつづったものです。当初はTwitterで公開されていたもので、3万5,000リツイートされるほど話題になった後、「月刊ヤングマガジン the 3rd」(講談社)で連載されることになったのです。

個人でどんな神様を信じるのも自由ですが、子どもが巻き込まれる場合は時として不幸が起こります。しかも、普通に学校生活を送れないレベルの厳しいルールがあるのですから、周りとトラブルになることは必至です。
  

■かわいいお洋服はダサビッチ

  


いろいろとカルチャーショック
  

同級生の女の子の家にお呼ばれした主人公のさやちゃん。「ちゃお」は読んだことない、「コーラ」も飲んだことがない……カルチャーショックだらけなわけですが、いつも地味な格好をしているさやちゃんを心配して、かわいい服をくれるお友達。めちゃくちゃ親切ですね。こういう友達は大事にしておきたい。

うれしくて思わず家でフィッティングするさやちゃん。しかし、それを見たお母さんのリアクションは……
  


かわいいって言ってほしいのに
  

「お前はダサビッチだ!」と言わんばかりのさげすんだ目。

「…うわ」
「きっもちわる…」
「そんなサタンの服早く脱ぎなさい」

お母さん、かなりバッサリいきます。なにしろ「小悪魔」じゃなくて「サタン」の服ですから、ガチのディスりです。結局、洋服は速攻でゴミ箱行き。お母さんの前では、おしゃれな服を着る、同級生と遊びに行く、誕生日を祝う、もちろん異性とデートをしたり彼氏を作ったりすることなども全部NGなのです。なかなかしんどい青春期ですね。

  

■神様オンリーのお勉強タイム

  


テストに出るの?
  

さやちゃんの家庭はお母さんのポリシーなのか、かなり勉強熱心です。それこそ、毎日のようにお母さんとマンツーマンでお勉強です。

……まあ、お勉強の内容が、ほかの小学生とはぜんぜん違うんですけども!

  

■気まずすぎる勧誘タイム

タイトルにもある通り、宗教勧誘に熱心なお母さんなので、子ども連れで「奉仕」と呼ばれるご近所訪問をしたりします。自分も経験がありますけど、子ども連れが来ると、つい“話ぐらいは聞いてあげたほうがいいのかな”って思っちゃうんですよね。ただ……

  


これはキツイ
  

同級生の家に行ったりするのは、子どもにとってだいぶ罰ゲームですよね。翌日、学校で何言われるのか、わかったもんじゃないです。お母さん、そこは空気読んであげようよ。って、読めないから、毒親なのか……。

  
■クリスマスは悪のイベント!

さやちゃんのご家庭はだいぶ進んでいて、幼稚園の頃にはすでにサンタさんが存在しないという、子どもにとって夢も希望もない現実を知らされます。

  


クリスマスは悪!
  

たいていの子どもは小学校低学年くらいまではサンタの存在を信じてるでしょうから、友達と話がかみ合わないですよね。ちなみに小4のウチの娘は、いまだにサンタの存在を信じています。ただ、サンタにパソコンやらiPadやらをプレゼントしてもらいたいなどと、親の経済状況を考えずにむちゃな要求を言いだし始めてるので、早急に真実を教える必要性に駆られています。

  


気まずすぎる
  

運動会も、応援合戦みたいな争うやつはNG、そして国歌はもちろん校歌の斉唱すらNGなのだそうで、これはどうやってもクラスで浮かざるを得ません。校歌なんて口パクで歌ったふりだけしてればいいと思うんですが、それもダメみたいです……。

  

■「赤ちゃんはどうやってできるのか」には、どう答える?

子どもに真実を伝える時のタブーといえば、サンタの次に来るのがなんといっても、アレ。「赤ちゃんはどうやってできるのか?」ですね。一番有名どころは「コウノトリが運んでくる」っていうやつで、コウノトリに対する軽い風評被害だと思うんですけど、さやちゃんちの某宗教では、ちゃんと対策済みでした。

  


逆に生々しい
  

「お父さんは陰茎をお母さんの産道にやさしくすべり込ませます」

陰茎ってあたりは生々しいですが、なかなかナイスな説明なんじゃないでしょうか? 「キスしたらできた」「キャベツ畑で生まれた」みたいなあからさまなウソより、いいと思います。

  

■衝撃のムチ打ちタイム

このマンガで一番衝撃的なのが、子どもに対するムチ打ちシーンです。もちろん、お母さんが元女王様だとか、そういうことではありません。

  


ガチの体罰
  

「奉仕に行きたくないな-」ってポツリと本音を言っただけで、この仕打ち 。ソフトSM的なやつじゃなく、ガチのムチです。このお仕置きは、たとえ幼児だったとしても容赦しません。しかもお母さんたちが「どのムチが一番効果があるか」を話題に盛り上がっているのが衝撃的。

  


ゴルフのグリップはアカン
  

「でもぜーんぶ、この子たちのためだもんね」

これぞまさしく愛のムチ! ……と本人たちは思い込んでいるようです。

  

■もし輸血が必要になったら……

近所のご家庭に宗教勧誘……と同じぐらい有名なのが「輸血禁止」のエピソードです。輸血するくらいなら死を選ぶ信者もいるぐらい厳しい戒律なのですが、作中ではお母さんが倒れて輸血が必要になり、緊迫するシーンが出てきます。こんな時、家族はどうすればいいんでしょうね。トマトジュースってわけにもいかないし……。

  


有名な輸血の話
  

そのほかのエピソードとしては、あまりの娯楽のなさに、いけないこととは知りつつもマスターベーションにハマってしまうシーンもあったりして、そこまで赤裸々に描くか! ってところまで踏み込んでます。でも、これが二世信者の現実なんでしょう。

後半では、お母さんと決別し、自由を手に入れるさやちゃんですが、それでも過去のトラウマで精神が不安定になったり、まさしく十字架を背負っていく状態のようです。

というわけで、新興宗教のタブーに触れた毒親マンガ『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』をご紹介しました。ヤングマガジン公式サイトとコミックDAYSで試し読みができます。一風変わった毒親マンガに興味を持った方は、ぜひご一読ください。

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出典)「よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話」 いしいさや/講談社

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