元祖“Lサイズ女子”の圧倒的包容力! 名作ラブコメ『Theかぼちゃワイン』の魅力
大地の母、母なる海、人間空母……これらの言葉に代表されるように、古来より人は女性に対して雄大さとか母性とか包容力みたいなものを求めてきました(人間空母は関係ありませんけど)。
しかし、残念ながら現代の日本では、自分より小柄な女性を好む男性が多いといわれています。そしてマンガの世界でも、男子のほうが女子よりも高身長なカップル設定が圧倒的に多いです。男子のほうが背が高くて当たり前、という先入観がいつの間にか世の中に浸透してしまっているんですよね。
ところが、そんな先入観をひっくり返す、170センチオーバー、180センチオーバーの高身長女子、すなわち“Lサイズ女子”が活躍するラブコメが近年増えてきています。『富士山さんは思春期』をはじめとして『ハル×キヨ』『Stand up!』などなど、さらには一歩踏み込んで『七つの大罪』のような文字通り巨人族の女子(9メートル級)が登場するマンガもあります。まあ『七つの大罪』は、ラブコメじゃないですけど。とにかく、Lサイズ女子復権の時代が、確実に到来してきているのです。
復権という言葉を使わせていただきましたが、1980年代、元祖Lサイズ女子がヒロインのマンガが人気を集めました。『Theかぼちゃワイン』がそれです。
『Theかぼちゃワイン』は1981年から「週刊少年マガジン」(講談社)で連載されたマンガで、作者は三浦みつる先生。82年からはアニメ化もされているので、原作は読んでいなくてもアニメは見ていたという人も多いのではないでしょうか。また、『Theかぼちゃワイン』の正式タイトルに「The」がついていることを知らない人も意外と多いかもしれません。
『Theかぼちゃワイン』は主人公であり、チビで女嫌いの自称硬派・青葉春助と、大柄ヒロインのエルちゃんこと朝丘夏美の「SLコンビ」によるドタバタラブコメディです。サンシャイン学園中等部に転校してきた春助に、エルちゃんが一目惚れ。一方的にモーションをかけます。しかし、春助は女嫌い硬派のキャラを押し通そうとして、エルちゃんを邪険に扱います。
しかし、エルちゃんのポジティブさや一途さに、次第に自分もエルちゃんに惹かれていることを認め始めます。それでも頑固な春助の性格のせいで、正式なカップル成立には至らない……という、非常にヤキモキさせるストーリー展開です。
春助もエルちゃんも中学生(後半では高校生)なのですが、その身長差はかなりのもので、エルちゃんが片膝をついてしゃがんでいる状態と春助が直立している高さがほぼ同じというシーンがあります。
春助とエルちゃんの身長について公式発表はされていませんが、初期設定ではエルちゃんが175センチで春助が120センチだったといわれています。中学生で120センチって……まさに、大人と子どもですね。
『かぼちゃワイン』の作品の魅力はなんといっても、元祖“Lサイズ女子”エルちゃんの、母なる海を感じさせる圧倒的包容力に尽きます。一方で、主人公の春助はケンカっ早く、トラブルメーカーで、エルちゃんに対する言葉も相当キツいものがあり、恋愛対象としてはかなりどうかと思うところがあります。
例えば、春助のためにエルちゃんがお弁当を作ってくれたシーンでの、春助のセリフ。
「よけえなおせっかいはやめろっていってんだろ! だれがくうかっ、ぜったいにくわねえぞ!」
それに対するエルちゃんのセリフは
「ううんっいいの、いやならしかたないもんっ。あたしってほんとおせっかいだね!」
……切ないです。
また、レストランで春助とエルちゃんが一緒に食事するシーンでは、ワリカンでお金を払おうとするエルちゃんに対し、
「女におごってもらうなんて男としてカッコつかねえじゃんか」
と、男らしく自分がおごる意思を見せますが、ポケットが破れてお金を落としてしまっており、食い逃げ疑惑で店員とレジでモメ始めます。
結局、エルちゃんが全額立て替えることになるのですが、男のプライドが邪魔して、素直に受け入れられない春助。金がないくせに、頑なに拒みます。その時のやりとりのセリフ。
「春助クンあたしにはらわせて!おねがいっ。ねっ」
「よ……ようし……そんなにたのむんだったら、はらわせてやらァ!」
「ありがとっ。春助クン」
ちゃんと春助のメンツを立てつつ、お金を払ってきっちり場を収めるエルちゃんの懐の深さ……まさに女神です。中学生にしてこんなできた女、そうそういないですよね。
これだけだったら、春助は体も器も小さいサイテー男なのですが、そこは主人公。随所に、エルちゃんに対する気づかいも見られます。
足をくじいた春助の手当てをしようと、自分が住んでいる女子寮に春助を引っ張り込むエルちゃん。男子禁制の女子寮に男を連れ込んだことがバレて、エルちゃんは朝まで食事抜きの独居房のような反省部屋に入れられてしまいます。
責任を感じた春助は、女子寮に再度忍び込み、エルちゃんが幽閉されている反省部屋にこっそりあんパンを差し入れします。喜ぶエルちゃんに対して……
「い、いいかっ勘違いすんなよ! 別におまえが心配だからきたんじゃねえぞ」
そう、春助は決してエルちゃんが嫌いなわけではないのです、頑ななまでの男ツンデレなのです。もちろん作品連載当時はツンデレなどという概念はありませんでしたが、春助は80年代からすでに孤高のツンデレ男子だったのです。
とにかくエルちゃんは、春助のしでかしたケンカやトラブルを丸く収め、どんなに春助に憎まれ口を叩かれても、常にニコニコして決してへこたれないタフなメンタル。そして、最終的には圧倒的包容力ですべてを包み込んでしまう、中学生にして完成された母性を持つ女なのです。人間関係がギスギスしがちな今の時代だからこそ、エルちゃんのような体もハートもビッグなLサイズ女子が評価されるべきではないでしょうか? Lサイズ萌えの時代は、確実に到来してきていますよ!
ちなみに『Theかぼちゃワイン』には続編として『Theかぼちゃワイン Another』という作品があります。こちらは27歳、社会人となった春助とエルちゃんの話です。エルちゃんは春助の実家のランジェリーショップで働いており、春助は探偵事務所で働きだすのですが……
「ねぇ、せっかくだから泊まっていけばいいのに」
「恋人同士でもないのにそんなこと出来っかよ!!」
「気安くキスすんなって言ってんだろ!」
というわけで、27歳になった2人の関係は、中学時代から何も変わっていませんでした。ダメだ、この甲斐性なし男は……。エルちゃん、いくら器がでかいといっても、いい加減キレるべきだと思います。
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引用)
『Theかぼちゃワイン』
『Theかぼちゃワイン Another』
三浦みつる / 講談社 / 秋田書店 / ビーグリー