徘徊老人が日本を救う!?衝撃のニューヒーロー「徘徊老人ドン・キホーテ」
ボリューム満点 激安ジャングル!
こんにちは、いろんな意味でボリューム満点なJ君です。夜中に例の激安ジャングルなお店に行くと、大抵カー用品コーナーあたりに白いジャージを着た金髪のお兄さんお姉さんカップルがいて近寄りがたい雰囲気な今日このごろですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
今回ご紹介するマンガは「徘徊老人ドン・キホーテ」という異色のタイトルですが、ペンギンがトレードマークの黄色いお店で老人がお買い物する・・・という内容ではなく、ボケてしまった老人の視点で現代日本人の恥部を痛烈に批判するというかなり衝撃的な作品でありました。
「徘徊老人ドン・キホーテ」の作者はしりあがり寿先生です。「真夜中の弥次さん喜多さん」「ヒゲのOL薮内笹子」などの代表作がありますが、どの作品も独特のギャグタッチな画風から繰り出される摩訶不思議な世界観が持ち味です。徘徊老人を主人公にしたマンガというのも普通に考えたらかなり衝撃的ですが、あのしりあがり寿先生が描くんだったらアリなんだろうと思わせるものがあります。
これが現代のドン・キホーテ
早速ご紹介してまいりましょう。主人公は紙の兜に自作の槍を持った着物姿の老人です。見るからにヤバイ感じのナリしてますよね。このご老人が、すでに亡くなっている奥さんがまだ生きていると信じこみ、奥さんを探して昼夜を問わず街を徘徊しては一騒動起こすというマンガです。
しかし騒動を起こすといっても、彼には彼なりの正義に基づいて行動しているのです。たとえばいつものように奥さんを探して公衆便所のドアというドアをノックする老人。
迷惑すぎる人探し
奥さんがいるいないとか言う以前にその探し方はないだろ・・・という行動なのですがそんな中、トイレでDQNにカツアゲされているかわいそうな少年を発見します。現代のドン・キホーテはもちろん黙って見ていられないわけです。
老人が吠える
「少年たち!!君たちが行っている行為それは・・・」
ここは笑っていいところなのか?
「カツカツカツカツ・・・カツドン!!」 「カツアゲだろ!」
あまりにリアルすぎるボケはどこまで笑っていいのか分かりません。
キレッキレ
そして大暴れの救出劇。確かに行動だけ見ると相当アブない人なんですけど、やってることは極めて正しいのです。我々がもし同じような状況で彼のような勇気ある行動ができるかと言ったら・・・わかりませんね。いろいろ考えさせられるものがあります。
また、老朽化しあちこちにヒビが入って雨漏りだらけ、倒壊寸前のマンションにて。
現代人を象徴するセリフ
こんなマンションに住んでいては危ない、今すぐ出て行くべきだと正論をかざす老人に対し「そうはいってもそれぞれの家庭の事情があるし・・・」と事なかれ主義の住民たち。
なんで妻まで!
そんな無気力な住人たちの姿を見て、住民達は「悪魔の牢獄」に閉じ込められているのだ・・・と妄想がスタート。遂には、自分の妻もこの牢獄に閉じ込められているに違いない!と誇大妄想が大爆発。もうこうなると彼を止めることはできません。
牢獄風なのは幻覚のせいです
誰も望んでいない救出劇で大ハッスル。そして、ついにこのマンションの元凶であるラスボス、ジチカイチョウと対峙することになります。
諸悪の根源ジチカイチョウ(給水塔)
もちろん幻聴です
錯乱しすぎてマンションの屋上にある給水塔をジチカイチョウと勘違いしてます。まあ確かにラスボスっぽいビジュアルですけど。ジチカイチョウに対し、住民を開放しろとの懸命の説得をしますが、ジチカイチョウは聞く耳を持ちません(ていうか全部幻聴)。そしてついにバトルが開始されます。
すごいタイミングで落雷
雷雨の中の激しいバトルが遂に決着です(全部幻覚)。なんと老人の投げた槍が給水塔に刺さり、まさかの落雷!この衝撃で本当にビルが倒壊するのです。
一夜にして大惨事に
ジチカイチョウの野望は崩され、住民たちは「悪魔の牢獄」から救出されたのです。果たしてこれでよかったのか・・・?いや、よかったのです。きっと。
ラテン系介護士
ちなみに、毎回老人が暴れた後は必ず介護士のサンチョなる人物が現れ、老人をたしなめながら連れて帰っていきます。
奥さんも幻覚で登場
また、亡くなってくなっているはずの奥さんもちょいちょい登場します。もちろん老人の妄想or幻覚なのですが、おそらく読者もどこまでが現実でどこからが妄想なのかも読んでいるうちに分からなくなってくるややこしいマンガです。
次の話では、弱いものや変わり者を見つけては嘲笑するテレビのバラエティ番組の風潮に異議を唱える老人。仕舞いには自分も笑いものにされていると思い込んで激怒し。ハチ公にまたがって空を飛び、渋谷駅前の巨大スクリーンを槍で次から次へと攻撃。破壊してしまいます(これも妄想)。
ハチ公って空飛べるんだ・・・
狂ってますが深いセリフです
しかし、一見狂っているようにみえる老人の行動ですが、何でもかんでも笑いものにして嘲笑する現代の風潮に対する強烈な皮肉であり、これまた考えさせるものがあります。
実は、この老人は元々日本を代表する大企業のカリスマ社長だったのですが、奥さんを亡くして自宅も火事になり、そのショックで事業も大失敗・・・落ちぶれて徘徊老人になってしまっていたのでした。
実は元カリスマ社長
最後のエピソードでは、この老人が社長時代に手がけ、プロジェクトが失敗したために廃墟となってしまった巨大ビルのエピソードです。
バブルの遺産
神様に見えないこともない?
そびえ立つ廃ビルを見た女子高生がふと「なんか天使の翼みたい」とつぶやいたことがきっかけで、マスコミが神様が宿るパワースポットとして持ち上げ始め、人々が参拝するために次々と集います。いわゆる聖地巡礼ブームみたいなことが起こり始めてしまったのです。なんかそういう習性ってありますよね、日本人って。
いがいと神ってそんなもんです
老人にしてみれば、自分が落ちぶれるきっかけとなった忌々しい産物がマスコミによって神様扱いされる状況に絶望します。しかもこの廃ビルは倒壊寸前の危険な状態です。老人は危険であることを必死で訴えますが、参拝者は神様を前に聞く耳を持ちません。
いいようにしてくださいってどうすりゃいいの
そこでついに強硬手段に出る老人。廃ビルの最上階からセメントの粉をまき散らし、参拝者共の目を覚まさせます。
間一髪で助かります
ついにビルが倒壊するというタイミングでまさに間一髪。老人の強行手段で多くの人々が救われたのでした。
神様全否定
「言っとくがな、オレは神様なんて大キライだ。」 「全能だかなんだか人をみくだしてニヤニヤ笑って、いうこと聞かない人間にはバチを当てる!!」
このエピソードに出てくる老人の神様観もまさに正論というか、現代に魍魎跋扈するよくわからん神様達に対する強烈な皮肉がこもってますよね。なにげに名言の宝庫でもある作品です。
お気づきの方もいるかもしれませんが、本作品はスペインの名作小説「ドン・キホーテ」をアレンジした作品です。原作のストーリーも、騎士道物語を読み過ぎて妄想に陥った主人公のドン・キホーテが自らを伝説の騎士と思い込み、痩せこけた馬のロシナンテにまたがり、従者サンチョ・パンサを引きつれて旅の道中で騒動を起こすという内容で、当時の社会に対する皮肉が盛り込まれています。なんで老人の介護士がラテン系なのか、その謎は原作にあったというわけなのです。
というわけでギャグマンガのようで、哲学的でもあり、泣かせるシーンもある強烈な問題作「徘徊老人ドン・キホーテ」をご紹介しましたがいかがだったでしょうか?作品全般を通して実はボケているはずの老人のほうが、現代人が見えていなかったり、目を背けているものについてはっきり見えているかもしれないという強烈な皮肉が込められている作品なのです。
J君もいつかドン・キホーテのような勇気のある男になって、金髪白ジャージの人がいるカー用品コーナーで堂々と買い物ができるようになりたいです。
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出典)
「徘徊老人ドン・キホーテ」 しりあがり寿/朝日新聞社
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