柳沢きみお「大市民」シリーズ 令和に生き残こる唯一無二の老害マンガ
美味(うま)しー!!
夏が近づいてビールが美味しい季節になってきましたね、まさにビール美味しですな!ところで昨今のビールのCMに物申したいことがあるんですが、CMタレントたちのビールを飲んだあとのリアクションが過剰すぎません?ビアホール的なところとか、夜景の見えるテラスとかで、満面の笑顔を作って「ン゙ン゙ン゙ン゙ン゙ッーーーー!ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッーーーーーー!!幸せェェェーーーーー!!!」みたいな。現実にビールを飲んでそんなリアクションする人いる?むしろビールとは違う覚醒成分入ってない?…みたいなどうでもいい苦言を呈するお年頃のJ君です。まさに老害。
平成時代に勃興したキーワード「老害」は、令和になってだいぶ排除されるようになってきたように思います。しかし、なければないでちょっとさみしいのが老害。そう今、世の中に足りないのは「老害」という名の一匙のスパイスではないでしょうか?(多分違う)というわけで皆さん、本日ご紹介するのはビール片手に、おっさんが老害めいた発言を繰り返すだけで30年以上続いているという信じられないマンガ「大市民」シリーズをご紹介いたします。
「大市民」は柳沢きみお先生の代表作の一つで、1990年に双葉社「アクションピザッツ」で連載開始され、その後も「大市民Ⅱ」 「THE大市民」 「大市民日記」など掲載誌とタイトルを微妙に変えながら現在第9シリーズまで続いているという長寿作品です。主人公の小説家、山形鐘一郎(やまがたしょういちろう)というキャラを通して柳沢先生自身の社会観や趣味、生活習慣について描いたライフワーク的作品とされています。
悲壮感漂い顔からの美味し!
■「毒おじ」山形鐘一郎の華麗すぎるスペック
「大市民」という作品は主人公の山形鐘一郎(やまがたしょういちろう)を抜きにして語れない作品です。作品開始時点の45歳にしてすでにネット界隈で「毒おじ」と称号を得るほどの老害キャラなのですが、単なる嫌なヤツでは、これほどまでに作品が続くことはありません。どこか憎めない、というか割と「いい人」なところもあります。
山形鐘一郎は売れっ子小説家で、実は妻が4人おり、認知した子供は11人。それぞれの家庭に月100万円づつ生活費を仕送りし、残ったお金で自分は悠々自適な一人暮らし…という、おいおいこれってドバイじゃなくて日本の話だよね?と確認したくなるようなすごい設定です。単純計算でも月収420~430万円以上はあるってことですからかなりの売れっ子であることがわかります。
小説家という自由業の立場を利用して、ボロアパートで慎ましくも自由人らしく粋な生活をしています。昼間っからビールやワインを飲んだくれ、たまに美女連れでふらっと銀座に高級寿司を食べに行くかと思えば、温泉にいったり、クラシックカーを乗り回したり、突然別荘を買ってみたり…とにかく自由。世の疲れたサラリーマンにとって羨ましくてたまらない生活をしています。
負け犬たちが集うアパート
その山形が住むボロアパートの他の住人たちが、この世の負け犬を集めたような状況で、バブルが弾けて無一文になり家族に捨てられた元不動産会社社長とか、エリートのはずなのに職場が嫌すぎて無断欠勤を繰り返す銀行員とか、大学受験に失敗し続けて先が見えなくなっている二浪生、山形の愛人になりたくてアパートに押しかけてきた女子高生、新興宗教にハマっている女子大生などなど・・・。
無一文の元社長(佐竹さん)を励ます山形
これらのルーザーたちがなぜかこぞって、山形を慕って部屋に集ってきまして、落ち込んでいる人がいれば励ましたり、うまい飯を作ってあげたり、ドライブに連れて行ってあげたりと、とにかく面倒見がいいのです。別にアパートの大家というわけでもないのに、めぞん一刻の響子さん並みの慕われっぷりです。
■山形のグルメやライフスタイルが魅力的
老害マンガというイメージがつきまとっている「大市民」シリーズですが、グルメマンガ的な側面もかなりあります。基本、貧乏アパート一人暮らしなので、ローコストな貧乏レシピが多いのですが、酒に合わせることが前提なっており、とにかく美味そう。「大市民」のレシピ本まで登場しているほどです。
白菜メインでも美味いよね
これは白鍋という山形の代表的な貧乏レシピです。とうふ、うどん、白菜、長ネギという超シンプルな具材のみですがなんともうまそう。冬に食べたくなりますね。
米と日本酒だから合いそうだけどさ…
金がなさすぎてごま塩ふりかけただけのご飯で酒を飲むという、究極の貧乏レシピですが、この漫画で紹介されると試してみたくなるんですよね。
松茸土瓶蒸し大好き
たまに奮発して、売れっ子小説家らしく寿司(鮨)を食べたり、松茸の土瓶蒸しを食べるなどの贅沢もするかと思えば、ラーメンや蕎麦など庶民的な外食シーンも多いです。しかし、単なるグルメ紹介ではなく、山形独自のこだわりも炸裂しています。
イカは縦スジにこだわる
寿司屋に行くとまずイカを頼んで、必ず縦スジの切れ込みを入れてもらうみたいなこだわりから始まる寿司ウンチクが始まります。
具の多い冷やし中華は嫌い
冷やし中華でも具がたくさん乗ってるタイプが嫌いだったり、カレーは好きだけどカレー丼は許せないなど、面倒くささで井之頭五郎をはるかに超えるクオリティです。
ビールを飲む前に歯を磨くとうまいという謎知識も…ホンマかいな。
なんか試したくない…
■苦言、暴言、老害まみれの毒おじ山形の真骨頂とは
ここまで、山形鐘一郎の言わば「陽」の部分を紹介してきましたが、ここからが本題です。やはり作品のメインとなるのは山形による、この世のあらゆることに対するボヤキというか愚痴というか、毒舌というか、とにかくこの世の老害要素をこの男が一人で担う勢いです。
日本人には美学がない
それでも、「大市民」シリーズ1初期の頃は意外といいこと言ってたりするんですよね。その当時だったら共感されていただろうなみたいなものもあります。
ゴルフ大っ嫌い
人生にパソコンは不要!
数十年経ってから、山形が批判してることがやっぱり正しかった!みたいな先見の明ありパターンもちらほら見られます。
先見の明があるパターンも
しかし、「大市民」第1シリーズも後半に入ると、すっかりこの芸風が確立され、第2シリーズ以降もほとんど酒を飲みながらグチグチと毒舌を吐くシーンがコマの大半を占めるようになります。その内容も、共感できるものがあれば、何言ってるんだかよく分からなかったり、めちゃくちゃピントが外れてるようなものもあり、あらゆることに噛みついてます。まさに玉石混交。
テレビゲームは麻薬と同じ
赤ワイン通は胡散臭い!
酒を飲みながらってのがまた、新橋あたりでクダ巻いてる酔っ払いみたいで老害感マシマシです。この感じでまだ40代ですから、だいぶ仕上がってますよね…。
日本に英語教育は不要!
これなんかもね、アメリカ嫌いの山形ならではの発言なんですけど、リアクションに困りますね。いくらなんでもそりゃ無茶だろうっていう。
■ほぼ実名のタレントへの容赦ない攻撃も
単なるヒガミ説
政治、経済、社会、マスコミ、日本男児からグルメに至るまであるとあらゆるジャンルに難癖をつけ続ける「毒おじ」山形鐘一郎ですが、特にすごいのは実名もしくは、ほぼ特定可能な状態で、容赦なくタレント批判するというストロングスタイルを貫いています。まさに怖いもの無し。
Jリーガーもお嫌いなようで…
しかも割と言ってることが先入観丸出し&テキトーさが目立つので、ターゲットにされた方はたまったもんじゃありません。
■最新作、第9シーズンはまさかの「大市民 がん闘病記」
第7シリーズでは「大市民 最終章」、第8シリーズでは「終活人生論 大市民晩歌」と銘打たれ、宇宙戦艦ヤマト並みにこれが最後、今度こそラストと言われながらも続いてきた大市民シリーズも山形は今作では75歳、なんと大腸がんになってしまった山形の闘病記が始まりました。
もはや文字だらけ
前作の「就活人生論」に近い枯れた雰囲気で、今のところ老害っぽさはなし。やはり毒おじも歳とともに丸くなるのか。なにやら文字だけのコマも増えています。タイトル的にこれが本当にラストかもしれませんがいったいどうなるのか…見守りたいです。
というわけで、日本を代表する老害マンガ「大市民」の第1シリーズを中心にご紹介しました。第2シリーズ以降も舞台や周りのメンツが変わるものの、基本的には同じ展開。そして老害度はどんどんパワーアップして行きますので読みごたえは抜群です。みなさんも「大市民」シリーズを読んで気分スッキリ「老害浴」してみてはいかがでしょうか?
美味し!はもう聞けないのか?
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出典・引用)
「大市民」 柳沢きみお / 双葉社 / ゴマブックス
「大市民 がん闘病記」 柳沢きみお / 小学館