ジャンプ黄金期の異色作! 破天荒教師が博打で解決『アカテン教師 梨本小鉄』(2018/07/23日刊サイゾー掲載)
義務教育を受けていたころから、かれこれ30年近くたった今、あらためて思うのですが、教師って個性の塊でしたよね。サラリーマン生活を送っていると良くも悪くも「普通」の範疇で収まる人たちが多い中、結構変人の教師が多かったなあと思うのです。生徒が宿題を忘れると「窓から飛び降りて死ね!」が口癖だったF先生、教室に隠しカメラを設置していたのがバレて更迭されたT先生、今ごろ、どうしているのでしょうか?
ところで、教師が主人公のマンガといえば、『GTO』から『まいっちんぐマチコ先生』まで、星の数ほどある定番ジャンル。そんなレッドオーシャンな市場の中でも、一度読んだら忘れることができない個性的な教師マンガがたびたび出現します。
今回ご紹介する『アカテン教師 梨本小鉄』もそのひとつ。「週刊少年ジャンプ」(集英社)での連載作品ながら、すべてを博打で解決しようとする不健全極まりない不良教師が主人公の異色作です。
連載期間は1986~87年まで、単行本は全4巻と、決して大ヒット作品というわけではないのですが、リアルタイムで読んでいたジャンプ読者にとっては絶対忘れることができないインパクトがありました。
なにしろ、当時のジャンプといえば『北斗の拳』『ドラゴンボール』『キン肉マン』『シティーハンター』などが巻頭を飾る黄金期で、ほとんどの連載作品が「友情」「努力」「勝利」のジャンプ三原則を導入していた時代です。
そこに、ニット帽・グラサン・口ヒゲという、うさん臭さ満載の小汚いおっさんを主役に据え、「飲む」「打つ」「買う」というジャンプ三原則の真逆を行くようなコンセプトの作品が突如として現れたわけですから、それはもう違和感バリバリでした。
いきなりカッコよすぎ
産休に入った教師の代用教員として、小春日和中学3年A組の担任をすることになった梨本小鉄は、いきなり二日酔いで初出勤。「俺が知りたけりゃあ…俺の授業に顔出しな!!」と言い放って新任挨拶をパスするなど、初日から破天荒。当然ながら、同僚の先生からは非難轟々です。そんな小鉄は、少年時代から天性の勘のよさで“予想屋の帝王”と呼ばれ、中学・高校では満点首席、自作の予想問題を的中させて、国内最高峰の東京T大に合格するという筋金入りの勝負師。人呼んで「“常勝無敗”の梨本小鉄」なのです。
■生徒に小遣いをベットさせる伝説の授業
生徒を賭博の道に引き込む教師
初授業も、トンデモないものでした。松・竹・梅の3問を用意し、生徒に自分の学力に合わせて問題を選択させます。それだけならいいのですが、サラ金で借りてきた札束を見せ金にして、生徒に小遣いをベットさせるのです。倍率は松が5倍、竹が3倍、梅が2倍……しかも確率の問題という名目で、丁半サイコロの確率を出す問題や、馬の予想表から3-6がくる確率を当てる競馬の問題、麻雀の配牌を見て自分がアガれる確率を求める問題など、ことごとく博打絡み。中学生の授業としては、あまりに刺激が強すぎます。
しかも、ちゃんと確率を求めて回答する生徒に対し、「これはなァ『数学』じゃねえ…博打の問題だ!」「受験!? そんなもの、俺には関係ねえよ!! 俺は“運”を教えに来たんだ!!」など、ものすごい無茶な理屈をつけ、結局小鉄が親の総取りです。はた目には、ほぼ教師による生徒のカツアゲ。すごく……斬新な授業ですよね。
■金の亡者かと思いきや、実は生徒思いの人情派
普段は生徒のことを「商売道具」などと呼ぶ小鉄ですが、困っている生徒には教師の枠を超えた面倒見の良さを見せてくれます。
小鉄のクラスの女子、高橋初音の父親は飲み屋を経営しているのですが、まむしの銀造というヤクザ者の嫌がらせに遭っていました。たまたま初音の家に家庭訪問をしていてヤクザとカチ合った小鉄が揉め事に介入。小鉄が勝ったらヤクザにお引き取り願うことを条件に勝負を始めます。
意味不明すぎるバトル
それがなんと、「便器に札束を詰め込んで詰まらせたほうが勝ち」という謎の勝負。先攻のまむしの銀造が100万円を便器にツッコみますが、全部流れてしまいます。対する小鉄の所持金は、サラ金から用立てた100万円のみ。つまり、このままでは負けは必至ですが……実は小鉄の用意した100万円は聖徳太子の描かれた旧札。旧札のほうが新札よりサイズがでかいため、見事便器を詰まらせることに成功!初音のお父さんのピンチを救ったのです。いい先生ですよね。勝負内容はまったく意味不明でしたけど。
■独自の試験対策でクラスの成績が急上昇
カンニングを教える教師
そんなこんなで、いい加減な二日酔いのギャンブル野郎だと思われていた小鉄が、次第に生徒から絶大な信頼を集めるようになるのですが、同僚の教師たちには疎まれ、校長にも目をつけられ、ついには解雇の危機に陥ります。
そこで、小鉄は校長たちに、実力考査で自分のクラスの成績を急上昇させることを約束。手段を選ばない小鉄は、クラスの生徒全員に小鉄独自のカンニング方法を伝授。くしゃみ、せき、しゃっくり、ため息などの生理現象を利用して答えを教えるという画期的な方法です。
ギャンブル好き教師は応用問題出しがち
さらに小鉄は、生徒に各教科の教師を尾行させて、アフター5の行動からテストの出題傾向を予想します。典型的なマイホームパパの教師は、型にはまった基本問題。クラブのママにべったりのスケベ教師はネチッコイ「筆記問題」でくるに違いない! など。出題者がスケベだと筆記試験になるみたいです。参考になりますね。
そもそも、教師が生徒にカンニングを指南している時点で、教育者としてかなりアレなんですけど。その辺はジャンプのマンガなので仕方がありません。
■迷走しまくりのエピソード「全日本有能教師トーナメント」
初っぱなのインパクトのあるギャンブル授業のあと、しばらくはよくある人情教師マンガみたいなストーリーが続いていたのですが、作品終盤に突如として「全日本有能教師トーナメント」なるバトルが始まります。迷走するジャンプ作品が打ち切り目前にしてバトル展開に走る……黄金期のジャンプで日常的に見られた光景です。
このトーナメントは、全国からよりすぐられた凄腕教師7名が賞金1,000万円を賭けて闘うバトル。各中学校から選ばれた落ちこぼれの精鋭部隊のクラスの生徒をいかに手なずけ、学力を向上させるかを競うのです。というか、”落ちこぼれの精鋭部隊”ってなんなんだよ!? 言葉として矛盾してるだろ!
ジャンプっぽい方向性に
小鉄もたいがいヤバイ教師ですが、ほかのライバル教師たちも危険すぎ。どう考えても教師になっちゃいけないレベルです。
●貴王子紀世彦(たかおうじ きよひこ)
小鉄の同僚で、通称「教育界の貴公子」。金持ちなのをいいことに、生徒をロレックスなどの金品で釣って成績を引き上げようとする成り金教師。
●訥久広樹(どつく ひろき)
往年のスパルタ塾「戸塚ヨットスクール」の戸塚宏校長に思いっきりインスパイアされている教師。ジャージ姿で竹刀をぶん回し、問題を間違えると沖に出てヨットの特訓をさせるという、戸塚ヨットそのまんまのスタイルで生徒が泣き叫びまくり。
●楠見玲子(くすみ れいこ)
「女性の自立」をモットーとするフェミニスト教師。授業中に「教室にも女性の権利確立を!」などと叫び、男子生徒を徹底的に弾圧。しかし、小鉄に敗れた後は教育方針が180度変わり、問題が解けたらおっぱい触らせてくれるエロ女教師に変貌。
●アビ・ナーシ・ヨンゾン
ネパール出身の外国人教師。「梵(ぼん)」しか言わないが、超能力が使える。某尊師のように座ったまま空中浮揚をしたり、試験中にテレパシーで生徒の脳内にテストの答えを送り込んだりできる最強の教師。
一番やばいティーチャー
どうですか? こんな教師ばっかり出てくるバトル。見てはみたいですけど、絶対教わりたくはないですよね。
■人生に役立つかもしれない名言の数々
本作には、人生の指針となるようなグッとくる
名ゼリフもたくさん出てきます。
「この世に人が住む限り、『博打』と『教師』はなくならねえよ!!」
「アホダマー!! 運を手にすりゃあ 自分の『勝つ方程式』が見えてくる!!」
「いくら”学歴”ブラ下げても…天下を取らなきゃ親がなくぜ!!」
「アホダマー!! 酒の力を借りるのも人間社会の特権よ!!」
名言が多すぎるマンガ
などなど。ただ、これらはすべて中学教師の発言ですからね。それはそれでマズいんじゃないかと思わされます。ちなみに「アホダマー!」というのは小鉄オリジナルの決めゼリフです。当時450万部も発行されていたジャンプに載っていながら、ちっともはやらなかったのですが、このセリフを言ってピクッと反応した人はきっと“隠れ梨本小鉄ファン”に違いありませんので、そっとしておいてあげましょう。
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引用)
『アカテン教師 梨本小鉄』
春日井恵一 / 集英社