「海人ゴンズイ」幻のトラウママンガ

日本トラウママンガ紀行「海人ゴンズイ」










アチョプ!マウマウ!

J君ですこんばんは。ああ、ここのサイトの管理人、以前からちょっとおかしいと思っていたけど、やっぱりか・・・!と思った皆さん、通報するのはちょっと待ってください。その手に持った受話器を置いて、落ち着いて話を聞いて下さい。



本日ご紹介するマンガはジョージ秋山先生の幻の作品「海人ゴンズイ」です。このマンガ、実は1984年頃に週刊少年ジャンプに連載されたマンガなのですが、当時ジャンプを読んでいた少年達に大変なインパクトを与えた作品でした。なにせ主人公のセリフが「アチョプ」とか「マウマウ」しかしゃべれないという設定です。そんなのマンガとして成立するんでしょうか?・・・実はわりと成立してませんでした。


この「海人ゴンズイ」は冒頭に申しあげたとおり1984年頃、巨匠ジョージ秋山先生がジャンプに鳴り物入りで連載を開始した作品です。1984年頃のジャンプといえば、ドラゴンボール、キャプテン翼、奇面組、北斗の拳、キン肉マン、気まぐれオレンジロードなどが連載されており、翌年以降は男塾、シティーハンターが連載を開始するなどどこを切っても超ヒット漫画ばかりのいわゆる黄金時代でした。そんな中、ジャンプに遂に巨匠降臨とばかりに「海人ゴンズイ」が実にセンセーショナルに表紙巻頭カラーを飾っていたのです。



しかし、黄金期のジャンプといえばご存知「友情」「努力」「勝利」の三原則をテーマとしており、読者のメインターゲットも当然若き血潮をたぎらせ青春を謳歌するような爽やか青少年達です。そして時の主流はといえばバトルマンガ、ともすれば右も左も天下一武道会という状況です。なにしろかのギャグマンガ「ジャングルの王者ターちゃん」すら気がついたら格闘マンガに変貌していましたからね。あれはビックリした。腰が抜けるかと思った。



それに対し、ジョージ秋山先生といえば代表作「アシュラ」や「浮浪雲」などのように容赦ないエログロ描写やアダルティックな感じがウリの作風です。アシュラは主人公から母親から友達からみんなして人肉食べるマンガですからね。あの路線はどう考えても「友情」「努力」「勝利」のジャンプでは無理がある感じです。



とにかく巨匠ジョージ秋山先生が新作「海人ゴンズイ」で汚れを知らないジャンプ読者にどう作風を合わせてくるかが注目だったのです。そしてついに連載が開始されました。





1854年、太平洋でアフリカの奴隷船が沈没、樽に入っていた黒人奴隷の子供ゴンズイが奇跡的に日本の離島に漂着。しかしそこは江戸時代の罪人達が島流しにされる流人の島だった。島には罪人を銛で串刺しにしようとする番人がおり、ひとたび海に入れば人喰いザメや殺人ウツボがウヨウヨ・・・そんな地獄絵図のような島で言葉の分からないアフリカの子ゴンズイはどうやって生き延びていくのか?





地獄絵図です



重い。

容赦ないエログロ路線そのままでした。そう、当時キン肉マンやキャプテン翼などの明朗闊達マンガに慣れきっていたジャンプ読者にとって「海人ゴンズイ」の設定はあまりにもマニアックそしてダークだったのです。いきなり流人の島て、アフリカ奴隷の子て。とりあえず「友情」「努力」「勝利」を微塵も感じさせない設定。むしろ「裏切り」「失望」「敗北」がワンサカ出てくる感じです。





いきなり重い展開



ストーリーはいきなり、流人の処刑シーンから始まります。島の掟をやぶった男が、島の番人リュウに銛で串刺しにされ、人喰いザメの餌食にされるという衝撃シーン。こっちは奇面組で「奇面フラッシュ!」とか見てる直後ですからね。もうね、見てらんないわけですよ。



そんな中、漂着したアフリカの奴隷の子ゴンズイが登場します。これがまたインパクト抜群なわけです。逆さ三日月型の目に黒緑色の肌と金髪。アフリカの子というか限りなく邪悪な妖怪っぽいです。そして言葉は「アチョプ」とかしか言わない。全然意味不明。まさに当時の爽やかジャンプ読者には理解不能な新世代ヒーロー登場というわけです。



新世代ヒーロー「ゴンズイ」





そして、ゴンズイの唯一の味方がこの作品のヒロイン、アズサ。食料のないゴンズイに母乳を飲ませてあげたりする母親がわりの存在です。しかし、ヒロインといいながらこの女もなかなかナニがアレなキャラでした。





「やせちゃって」じゃねーよ



自分の赤ん坊がすでに死んでいるのに気がつかずにあやし続けていたり






イッちゃってます



子守歌を歌う表情が完全にイッちゃっていたり・・・。

これまた当時の熱血ジャンプ読者には理解不能な新世代ヒロイン登場というわけです。





ポロリもあり



そんな新世代のヒロインなので、肌の露出なんかも非常に開けっぴろげでした。さすがはジョージ秋山先生・・・。ジャンプだろうとこのへんはさすがという感じです。そんな感じで基本的にはアフリカの子ゴンズイが、





ギリギリな描写

陰湿な島の番人リュウに抵抗したり、



凶暴すぎ

海に入って巨大ウツボと戦ったり





トラウマになります

人喰いボラの大群と戦ったり



といったいまいちジャンプ読者にとっては感情移入のしづらい、心躍らない展開が続きます。だってねえ。いくらバトルっていっても敵がボラですからね。迫力のボラバトル!・・・うん、どうしても地味です。



ちなみにJ君はこの人喰いボラの大群のシーンがあまりにもグロかったので、未だにボラがトラウマになってます。



しかし、第六話目あたりでいきなり大胆な方向転換がありました。何と、唐突に島の大人達が八丈島に労働にかり出され、子供だけの島になってしまうのです。それまで最大のライバルだったリュウも突如としていなくなります。

おそらくあまりに煮え切らない展開に危機感を抱いた編集部(=神の手)による大幅なテコ入れが入ったのだと推察されます。





その後はゴンズイは、今までのダーク路線とはうって変わり、驚くほどポジティブな展開へ。今度のテーマはなんと「友達作り」






バラグーダ倒して友達ゲット!



島に襲いかかるバラクーダ(殺人カマス)から子供達を救うために戦ったり、魚を捕って食糧難を救ったりという「いきなり黄金伝説」っぽい孤島サバイバルマンガに変貌していきます。







カマスバトル



しかしポジティブな展開に変わったとは言え、毒トカゲやカマスと戦うという地味な展開は根本的には変わりません。ド迫力のカマスバトル!・・・うん、やはり地味。皮肉にも作品としては「友情」「努力」「勝利」が出そろった頃、わずか11話で打ちきりになってしまったのでした。





ほんと誰だよ



ちなみに、最後はなぜか人魚のコスプレをしてきた女の子がゴンズイを誘惑するというシーンが唐突に出てきて作品の意味不明さに拍車がかかりました。



おそらく先生の構想の中では、あくまでこれから展開する壮大な海洋ファンタジーの序章だったのかもしれませんが、それはジャンプ読者には微塵も伝わることなく終了してしまったのです。



そんな感じで、わずか11話で打ち切りになってしまった「海人ゴンズイ」。しかし、そのインパクトのありすぎるキャラ達やマッドな表現、華々しい連載開始からのものすごい勢いでの尻すぼみ具合といい、いろんな意味で多くの人のトラウマに残った作品に違いないのです。それは、この360円の単行本が中古本市場で、5,000円~10,000円という尋常でない相場価格で流通していることが物語っているといえましょう。





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参考) Amazon →  レビュー →    

出典) 「海人ゴンズイ」 ジョージ秋山/集英社

      

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