もう一つの”まんが道” アグレッシブ藤子不二雄伝説 「ハムサラダくん」
ツナサラダ、ポテトサラダではなくハムサラダ
こんにちはJ君です。マンガの世界では漫画家自身をテーマにした「マンガ家マンガ」というジャンルが存在します。その中でも最高峰というか、バイブルのような存在が藤子不二雄A先生による自伝的作品「まんが道」といえましょう。この作品を読んで漫画家を志した方もいるのではないかと思います。
最近では現代版「まんが道」とも言われる大場つぐみ・小畑健先生の「バクマン。」などが話題ですが、実はもう一つ、皆さんにご紹介しておきたいアナザーサイドオブ「まんが道」があります。その名も「ハムサラダくん」。藤子不二雄先生の「まんが道」をベースに、さらに過剰な演出を盛り込んだ超アグレッシブな「まんが道」なのです。
「藤子不二雄物語 ハムサラダくん」の作者は吉田忠(ヨシダ忠)先生。藤子スタジオのアシスタント第1号だった吉田先生が独立後に手がけた作品で、「まんが道」を小学生のコロコロ読者にも分かりやすくというコンセプトでスタートしたのですが、ギャグマンガが得意な吉田先生が張り切った結果、いたるところに過激な演出が満載で、最終的には「まんが道」とはまったく別モノになってしまったという伝説の作品です。今回はその伝説ポイントをご紹介してまいりましょう。
復刻版が出ています
■とにかく熱い
その演出の過剰さは、まるでスポ根マンガです。いうなれば「まんが道」と「巨人の星」を足して2で割った感じです。中でも特にオニアツなシーンが、まだ駆け出しのハムサラダくん達が、憧れの手塚先生の自宅に訪問し、手塚先生のマンガを描いている姿を見せつけられるシーン。
オーラがハンパない手塚先生
引火しました
あまりに熱すぎて思わずこっちまでマンガを描きたくなってしまいますね!(無理だけど)
結局その日、手塚先生の背中を見ているだけで辛抱たまらなくなったハムサラダくん達は、手塚先生と話すことなくそのまま帰ってマンガを描くことにするのです。とにかく作品中のいたる所で燃え盛るファイヤーフレイムが特徴になっております。
とにかく熱いマンガ
もうめっちゃ体育会系ノリですね。
■インパクトのありすぎるタイトル
そもそもタイトルの「ハムサラダくん」ってなんだよ!と思う方も多いかと思うのですが、藤子不二雄A先生こと我孫子先生が肉嫌いで野菜しか食べないため「サラダくん」というあだ名で呼ばれ、一方で藤子F不二雄先生こと藤本先生は肉やハムが大好きだったことから「ハムくん」となり、二人合わせて「ハムサラダくん」になったのです。
肉嫌いのサラダくん
すごいのは実の母親まで息子に向かって「ハムくん」とか「サラダくん」とか呼んでるところです。これはさすがにアレですね。もしJ君だったら自分の親から「ハム」って呼ばれたら・・・いくら体型がボンレスだったとしてもそれだけは拒否したいところです。
親までハム呼ばわり
■漫画家だって人間だ!
ある日、読者からの手紙が届きました。はじめてのファンレターにドキワクのハムサラダくん達。しかしそこに書いてあったのは衝撃の内容でした。
イラストがシュール
「あんな漫画なんかれんさいをやめろ!!へたくそ!!アホ まぬけ」
まるで2ちゃんねらー並みの罵倒。まさにハムサラダくん涙目。
まさに涙目
そんな辛口ファンレターにショックを受けたサラダくんは、なんと読者から来た手紙をビリビリに引き裂きます。ちょっ、サラダくん大人気無・・・いやいや、マンガ描いたことないくせに好き勝手言ってんじゃねーよってことですよね。分かりますその気持ち。漫画家だって人間です。聖人君子じゃないのです。
その他にも、出来上がった作品を近所のガキ・・・じゃなくて少年に読ませてみたらリアクションがイマイチだったときも「さあ、面白かったと言って笑え!」とか・・・。サラダくんすげえな。本音トーク過ぎ。まあ気持ちは分かるけど・・・。
それは言っちゃダメ!
ちなみにその後、ちゃんと反省して、手紙を送ってきた少年に大人な態度で返事を書く二人。やはり将来大物になる人物は器が違いますね。
■まんが道は命懸け
このように、マンガにかける情熱が人一倍熱いハムサラダくん達ですから、マンガを描くときは常に命懸けなのです。時には、血を吐きながらマンガを描くことだってあります。
シャレになりません
そういう問題じゃ・・・
そして原稿にかかった血はホワイトで修正します。まるで侍のようなストイックさ。ていうかホワイトで直してる場合じゃないだろ・・・病院行けよ。
まさに命懸け
他にも、ハムくんが右手に釘が刺さって負傷してしまったときは包帯でグルグル巻きにし、血を滲ませながら執筆します。連載のためなら命の一つや二つ・・・いやいや、さすがに死んでしまっては連載はできないわけですが、そのぐらいの気迫があったからこそ「ドラえもん」や「オバQ」が生まれたのかもしれません。
■編集長だって熱いぜ!
このマンガでは、編集長も熱いです。時はまだマンガ界の黎明期ですから、俺が才能ある漫画家を育てるんだ!という気概がビンビン伝わってきます。ハムサラダくんの持ち込んできたマンガも、簡単には受け取りません。ちょっとでも手抜きが見られればバンバン突き返します。
マンガの鬼です
この妥協なき漫画家と編集者のガチンコのぶつかり合いが日本のマンガ界を作り上げてきたのでしょうね。その一方で、某「ハンター×ハンター」は・・・いえ、なんでもありません。
正論ですけどね・・・
先ほどのハムくんが手を負傷をした時に描いた作品もクオリティが低いと一喝です。厳しいですね。そう、漫画家は作品が全て。手を負傷したからなどとの言い訳は一切無用です。その一方で、某「ハンター×ハンター」は・・・いえ、その話はやめておきましょう。
こんなエピソードもあります。ハムくんとサラダくんのお母さん達がはじめて田舎から上京して来ます。上野駅で会えないかと手紙をもらいますが、ハムサラダくんは仕事が大忙し。そこで編集長に相談すると案の定・・・
怒りすぎ
「ばっかもーん」(怒)
マジッすか・・・
「プロならたとえ死にかけた親がいても・・・」
なんと非情な!漫画家は親の死に目にも会えないということか・・・。
しかもそのまま旅館にハムサラダくんをカンズメにしてしまう編集長。鬼だ・・・この男はマンガの鬼だ!
編集長の粋な計らい
しかし、鬼かと思われた編集長、実はいい人でした。実はハムサラダくんのお母さん達が列車で通過する線路沿いの旅館をとってくれていたのです。なんという粋な計らいでしょうか。やっぱり編集長はいい人だったんだ! 鬼じゃありませんでした!ちょっと話ができすぎてる気もしますけど。
■オリジナル過ぎる仲間たち
「まんが道」では、トキワ荘の住人として赤塚不二夫先生や石ノ森章太郎先生や寺田ヒロオ先生などが登場しますが、「ハムサラダくん」でもライバルそしてよい友人である若手漫画家達が登場します。しかし元ネタが分からないぐらいに思いっきり濃いキャラにアレンジされています。
ハムサラダくんの先輩として登場する漫画家、ジャンボ漫作は石ノ森先生がモデルといわれていますが、とにかく豪快で熱い男です。たとえば、例の編集長にボツにされた作品、他の出版社に持ち込んでいれば十分通用するクオリティですが、なんと・・・
その場でビリッビリに破いてしまいます。
豪快すぎるジャンボ漫作
尋常じゃない志の高さですね。また、ギャグのセンスが飛びぬけている風車かん平は赤塚先生がモデルといわれています。
凄いギャグセンスの風車かん平
「にくいにくいのにく十八、ペンペンするぞ。」
・・・さすが、ギャグのレベルがタダモノではありません。J君ごとき凡人には理解できないギャグセンスです。 さらにもっと濃いキャラで、アメリカ帰りのアメコミ調漫画家、ミスター竜というキャラも出てきます。
誰だよこいつ・・・
・・・もはや元ネタが誰なのか全然分かりません。アメリカンすぎる。頭がリーゼントだし、 ハンケチとか言ってるし。
戦国時代だったのか・・・
そして、時代は手塚先生を頂点とした若手漫画家の漫画家戦国時代に突入。ハムサラダくん達はこの漫画家戦国時代に生き残っていけるのか!?そんな凄い展開が待っているのです。
というわけで、漫画家を目指してない人でも読んだ後に思わずGペンを握り締めてしまうような、超ハイテンション”まんが道”「ハムサラダくん」をご紹介しましたがいかがだったでしょうか?
オリジナルの「まんが道」はかなり長編でシリアスな内容も含まれていますが、「ハムサラダくん」はコンセプトが子供向けということもあり、単純明快。終始ハイテンションで、いたるところに細かいギャグが散りばめられ、最後まで一気に読めてしまいます。 「バクマン。」などのマンガ家マンガが好きな方は、読み比べてみると面白いと思いますよ。
■■■
出典) 藤子不二雄物語 ハムサラダくん 吉田忠/マガジンファイブ/星雲社