永遠のマドンナ『めぞん一刻』音無響子、その抗い難い魔性を検証する

永遠のマドンナ『めぞん一刻』音無響子、その抗い難い魔性を検証する

 一度でいいから管理人さんに「管理」されてみたい、そんな今日このごろ、皆さんいかがお過ごしでしょうか? 管理人さんといっても、ビル管理人やウェブサイト管理人のことではありません。ほかでもない名作ラブコメ『めぞん一刻』の「管理人さん」こと音無響子さんのことです。

男のロマンを過積載したようなヒロイン・音無響子。「永遠のマドンナ」「日本一可愛い未亡人」「処女以上に聖女」などといった称号をほしいままにする彼女の魅力の秘密は一体何なのか? 今回は、名作ラブコメ『めぞん一刻』を紹介しつつ、音無響子の魅力について語りたい、語り明かしたいのです。

『めぞん一刻』は高橋留美子先生の代表作であり、ラブコメ不朽の名作として、非常に有名ですが、ラブコメのヒロインとして「未亡人」設定を前面に押し出したという意味で、画期的な作品でもあります。音無響子の魅力のひとつに、この「未亡人」というキーワードがあることは間違いありません。

「未亡人」。つまり、夫に先立たれた女性ですが、日頃よりエッチな動画を見慣れている諸兄にとっては、背徳的なエロスを感じてしまうキーワードではないでしょうか? 実に不謹慎な話です。しかし僕らの音無響子は断じて違う。死んだ夫に操を立てており、言い寄ってくる男に手も握らせない身持ちの堅さ……それゆえに、処女以上に聖女であるといえるのです。

改めて作品をご紹介しましょう。『めぞん一刻』は1980年から87年までの間、「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載されていました。舞台は古い木造アパート「一刻館」。主人公で浪人生(後に大学生)の五代裕作をはじめ、同じアパートの住人である一の瀬さん、四谷さん、朱美さんが主要な登場人物です。プライバシーもデリカシーもへったくれもない長屋住まいのような環境のアパートですが、そこに新しい管理人として、夫を亡くしたばかりの美女・音無響子が就任。そして、その響子さんを未亡人と知らずに一目惚れした五代と、それをはやし立てる下世話な住人たち。五代と響子さんの恋路の間に立ちふさがる、さまざまな障害やすれ違い……くっつきそうでなかなかくっつかない、そんな感じのドタバタラブコメディーです。

そういえば以前、当コラムで『きまぐれオレンジ☆ロード』を紹介した際に(記事参照)、ラブコメ三原則とは「優柔不断・ツンデレ・三角関係」であると書きましたが、ラブコメでは先輩格に当たる『めぞん一刻』も、その原則に見事なほどにのっとっています。

■難攻不落なようでスキがある魔性の女

響子さんは、一見すると、男を寄せ付けない雰囲気を漂わせています。死んだ夫、音無惣一郎に操を立てており、忘れ形見の飼い犬の名前にまで「惣一郎」と付けているぐらいですから、かなりのものです。しかし、五代やその恋のライバルでイケメンテニスコーチの三鷹に言い寄られると悪い気はしないようで、わりと気軽にデートに応じたりもします。そこで男たちは脈アリと思い込んでしまうのですが、最終的に「亡き夫」という超えがたい壁にぶち当たることになります。

つまり、響子さんは無意識のうちに、五代と三鷹、そして亡き夫・惣一郎をも天秤にかけ、三角関係を超える四角関係を作り出しているのです。これはかなりやっかいな優柔不断っぷりで、恐るべき魔性を備えているといえるでしょう。

■見かけによらず、相当なヤキモチ焼き

響子さんを口説きたくてしょうがない五代や三鷹に対し、デートには応じてくれるものの、キスはもちろんのこと、ろくに手も握らせないガードの堅さで、とにかく男たちをヤキモキさせる存在なのですが、その一方で、五代や三鷹がほかの女の子と会っていようものなら、露骨に不機嫌になります。

特に恐ろしいのが、一刻館の前に立って掃除をしながら、五代がアパートを出入りする時に無言のプレッシャーを与えるところです。ヤキモチ焼きでツンデレなのは、ある意味可愛らしいともいえますが、だからといって別に口説けるわけでもないという、この面倒くささ。もし響子さんが実在したら、結構な「地雷女」といえるでしょう。

■終盤戦、女の怖さをまざまざと見せつける

作品後半になると、響子さんが五代のことを好きなのが態度からもはっきりとわかるようになるのですが、三角関係ラブコメの宿命か、最後の最後まですれ違いや勘違いから起こる痴話喧嘩を繰り返します。そんなイライラからか、当初おしとやかなイメージだった響子さんの行動や言動も、かなりアグレッシブになっていきます。

響子さんの母校で教育実習をすることになった五代。そこに教え子でクラス委員の八神いぶきが登場。五代に一目惚れしたいぶきは、五代をモノにしようとガンガン迫ります。

そんないぶきの存在に、初めは大人の余裕を見せていた響子さんでしたが、響子をライバル視するいぶきの挑発に対し、次第にイライラし始め、笑顔のまま竹ぼうきを真っ二つにへし折ったり、「あんのガキー」と怒鳴ったりするなど……マドンナのイメージを崩壊させるシーンが次々と。

そして優柔不断な五代の態度に業を煮やした響子さんは、ついに自ら母校に乗り込み、教頭先生に八神のことをチクるという手段に出ます。響子さん……可愛い顔してそこまでやるか……。管理人さんは、恋愛のライバルまで完全に管理してしまったのです(うまいこと言ったつもり)。

■面倒くささを補って有り余る女の魅力

……ここまで、響子さんのことを褒めちぎるつもりが、気がついたらとんでもない性悪女みたいに書いてしまいました。しかし、それを補って余りある魅力が、響子さんにはあるのです(今さらフォロー)。

何しろ、高橋留美子先生の描く女性キャラの中でも最高傑作と呼べるほどの圧倒的な美貌と百万ドルの笑顔、つい守ってあげたくなる地味で幸薄そうな感じ、世間知らずで天然なお嬢様っぽさ、家事全般が完璧な理想のお嫁さんっぷりなど、ちょっと嫉妬深いところも含めて、男を魅了するに余りある存在です。

ほかの登場キャラクターも個性的で十分魅力的なのですが、結局は「管理人さん」音無響子あってこその『めぞん一刻』だといえるでしょう。それは、単行本の表紙は1巻から15巻までのすべてを響子さんが飾っているということからもわかります。竹ぼうきを持ったひよこエプロン姿、ミニスカートのテニスルック、水着姿に和服姿、バゲットを抱えた買い物姿、最終巻の白無垢姿などなど……単行本の表紙を並べると、まるで音無響子のグラビア写真集のようになります。

ちなみに『めぞん一刻』は、過去に2回実写化されており、86年の東映映画版、2007年のテレ朝ドラマ版がありました。気になる音無響子を演じるのはそれぞれ、石原真理子、伊東美咲。当時の響子さんのイメージは、石原真理子だったのか……今振り返ると結構、黒歴史っぽい感じですね。

■■■
引用)
『めぞん一刻』
高橋留美子/小学館

タイトルとURLをコピーしました