『プロレススーパースター列伝』 クセが強すぎる! 昭和のレジェンドレスラーを描いた名作

クセが強すぎる! 昭和のレジェンドレスラーを描く『プロレススーパースター列伝』とは?(日刊サイゾー掲載2017/12/20)

 みなさんは、プロレスはお好きでしょうか? 40代、あるいは30代の男子なら、青春時代に一度はプロレスにハマった経験があるのではないでしょうか? 児童館でウエスタンラリアットやバックドロップ、コブラツイストに四の字固めなどを掛け合って瀕死になったのも、今はいい思い出です。特に四の字固めをやられると本当にしばらく歩けなくなるから要注意な!!

近年、プ女子と呼ばれる女性ファンを中心に、プロレスブームが再び復活の兆しがあるというニュースをチラホラ見かけるようになり、思わずうれしくなってしまったのですが、僕らがハマっていた1980年代のプロレスブームは、本当にすごかった。ジャイアント馬場の全日本プロレスにアントニオ猪木の新日本プロレスという、野球でいえばセ・パに相当する2大団体の存在。ファンの度肝を抜いた初代タイガーマスクの登場、そしてゴールデンタイムのTV中継、東スポの見出しが毎日のようにプロレスネタなどなど……実にいい時代でした。

本日はそんなオールドプロレスファンの美化しきった思い出に、さらにブーストをかけてくれるであろうプロレスマンガの名作をご紹介したいと思います。その名も『プロレススーパースター列伝』

『プロレススーパースター列伝』は巨人の星、あしたのジョー、タイガーマスクの故・梶原一騎先生が原作、作画が原田久仁信先生。以前ご紹介した『男の星座』も、このコンビの作品でした。


力道山にシゴかれる若き日の猪木&馬場

いわゆる馬場・猪木による昭和プロレス全盛の時代に活躍したプロレスラーたちが、いかにして成り上がっていったかを紹介する伝記的作品なのですが、出てくるレスラーがことごとくキャラが濃いのです。そしてクセの強さが尋常じゃない。まあプロレスラーってキャラが濃くてなんぼのところがありますけど、それにしても限度があります。あり得ないほどのヤバイエピソードと名言の数々……久しぶりに読み返したら、面白すぎて震えが止まらなくなりました。


すべてのシーンが濃すぎる・・・

作品中で紹介されているプロレスラーは、スタン・ハンセン、アブドーラ・ザ・ブッチャー、アンドレ・ザ・ジャイアント、タイガー・ジェット・シン、ジャイアント馬場とアントニオ猪木、初代タイガーマスク、ハルク・ホーガン、ブルーザー・ブロディなどなど……いずれもレジェンド級の名レスラーばかりです。オススメは、「黒い呪術師」アブドーラ・ザ・ブッチャーが出てくるエピソード。本作品に出てくるレスラーは例外なく口が悪く、面白名ゼリフのオンパレードになっていますが、ブッチャーとブルーザー・ブロディのリング上での言い合いはもう最高です。


ステーキVSトンカツ

「きさまもステーキになりてえか!?」

「黒ブタがトンカツになりやがれ!!」

ブッチャーはその巨体のため仕方ないのですが、とにかくかわいそうなぐらい黒ブタネタでイジられまくります。ブラックタイガーとの舌戦もすごいです。


黒ブタふぜい

「黒ブタ風情が黒いトラに対してでかい口をきくな!」

「あッ、いった、いった、ミーが一番トサカにくることを──!」

ブタなのにトサカにくるとか……そんな面白い言い回し、実際は絶対言ってないと思うんですが、梶原先生のセンスで面白おかしく脚色されてます。

「インドの狂虎」と呼ばれるタイガー・ジェット・シンも、文字通りクレイジー。有名なエピソードとしては、「新宿伊勢丹路上乱闘事件」というのがありまして、アントニオ猪木と当時の奥さん、倍賞美津子が夫婦でショッピングをしていたところ、タイガー・ジェット・シンとその手下たちが襲いかかり、猪木をボコボコに、通行人が通報したためパトカー数台が出動して大騒ぎ、というガチの暴力事件がありました。その辺のエピソードも、しっかりマンガ化されています。


キレッキレのタイガージェットシン

「ヘイッイノキ!! 大事な美人ワイフの目のまえでぶざまにブチのめしてやるぜ!」

「おまえは狂人か!?」

こんなセリフのやり取りがあったのです。たとえ演出だったとしても、今だったらほんとに逮捕されそうでシャレになってません。当時のなんでもありなプロレスの雰囲気を象徴している事件といえます。

本作品で大きくフィーチャーされている、初代タイガーマスクのエピソードも演出過剰すぎて目が離せません。タイガーマスクはデビュー前、メキシコの秘密養成所でプロレス修行を積んでおり、火の輪くぐりをしたり、マットが鉄板で電流が流れている、そんなリングでスパーリングしたり、ガラスの破片がちりばめられたサンドバッグでキックの練習をしたり、トゲのついたバーベルを持ち上げたり……などの拷問スレスレの特訓をして強くなったと紹介されています。


こんなトゲトゲある?

今考えると、ほぼ原作マンガ『タイガーマスク』(講談社)の悪役レスラー養成機関「虎の穴」のエピソードと一緒で、あまりに出来すぎなのですが、連載当時、少年だった僕は、プロレスは100%リアルガチな格闘技だと思っていましたので、このマンガに描かれていることもすべて真実だと思って信じ切っていました。


猪木の解説も面白かった

プロレスといえば、スポーツなのかショーなのか、格闘技なのかエンタメなのか、ガチなのか八百長なのかというグレーゾーンな議論が必ず付きまとっていたのですが、2001年に元新日本プロレスのレフリー・ミスター高橋氏が書いた暴露本『流血の魔術 最強の演技』(講談社+α文庫)で、すべて勝敗がはじめっから決まっているショーであることが明らかにされ、今までプロレスのグレーだった部分がクロで確定してしまったのです。

これは僕らのように、薄々感づきながらもプロレスを格闘技だと信じ続けていたファンにとって、かなり衝撃的なことでした。と同時に『プロレススーパースター列伝』に書いてあったことも脚色されまくってたんだなあと、気づかされたものです。

何しろ、作品中でアントニオ猪木が「だれも八百長などと疑わぬ、実力が全ての過激な新日本プロレス」って、思いっきり書いてますからね。

とまあ、そういう経緯があり、プロレスはエンタメであると踏まえた上で改めて読んでみても、やっぱり『プロレススーパースター列伝』には色あせない面白さがあります。登場キャラが魅力的すぎるんですよね。この作品を読んだ後に、『流血の魔術 最強の演技』を併せて読むと、マンガでいかにも真実であるかのように描かれている伝説がことごとく否定されており、これはこれで非常に味わい深く楽しめますよ。

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引用)
『プロレススーパースター列伝』
原田 久仁信 /梶原 一騎 / 小学館 / グループ・ゼロ


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