『野田ともうします。』 ジワジワくる、ブレない地味女の魅力

ジワジワくる、ブレない地味女の魅力『野田ともうします。』(日刊サイゾー2019/5/20掲載)

  


  

平成の時代に新たに生まれたモテキーワードに、メガネっ娘」「不思議ちゃん」「地味系女子」なんていうものがあります。特にマンガの世界においては、地味でいかにもモテなそうな女子がメガネを取ったらかわいいことが判明し、激モテする……みたいなギャップ萌えが多数登場するようになりました。ギャップ萌え、いいですよね。僕なんか、すべてのマンガにギャップ萌えの要素があればいいと思ってるほどです。

しかし、今回紹介する『野田ともうします。』(著・柘植 文)は、「メガネっ娘」「不思議ちゃん」「地味系女子」の要素をすべて兼ね備えていながら、それらがまったくモテ方面に作用していない、ガチでストイックな地味系女子マンガです。そして、その世界観・発想がすべて読者の斜め上を行く、究極の不思議ちゃんなのです。

この形容詞しがたいジワジワくる面白さをなんとか皆さんに伝えたい、それが本稿の趣旨であります。

  


メガネと三つ編みがトレードマーク
  

本作のヒロイン・野田さんは、埼玉にあるFラン大学・東京平成大学の文学部ロシア文学科に通う女子大生。特技は親指を気持ち悪く動かせることで、その特技を生かして手影絵サークルに所属しています。この時点でいろいろとツッコミどころがありますが、まあとにかく花の女子大生とは程遠いキャラクターです。

加えて、奥が一切見えない度の強そうなメガネ、実用本位のガチな三つ編み、スーパーの衣料品売り場で買ったようなトレーナーにGパン姿という飾らないビジュアル。どれひとつ取ってもラブい要素がない、完璧な地味女子です。そんな野田さんの行動一つひとつが独特すぎてジワジワくる、気がつくとちょっと好きになっている……そんな作品です。野田さんの魅力を伝えるべく、エピソードの数々を紹介していきましょう。

  

■あらゆる行動が女子大生らしくない

  


人間ポンプ、知ってる人はそれなりのお歳
  

大学のクラス自己紹介の時、のみ込んだ金魚を口から出す「人間ポンプ」を披露する野田さん。当然、周囲にドン引きされます。しかし、まったく意に介さない、我が道を行くのが野田イズム。おそらく、ドン引きされていることすら気づいていないのです。

  


細かすぎて伝わらないモノマネ
  

大学生といえば合コンですが、合コンの時の自己紹介では「石破防衛大臣のモノマネ」を披露し、思いっきりその場をシラケさせます。この空気の読めなさ加減も野田さんの魅力。そんな野田さんの合コンの感想は、太宰治の小説の一節を引用し、「自分には人間の生活というものが見当つかないのです」。いや、いくらなんでも見当ついてなさすぎだろ……。

  


そんな渋いスイーツ話ある?
  

クラスの女子ともっと打ち解けようとして、オシャレにスイーツの話を切り出してみる野田さん。「太宰治が心中した鎌倉の小動岬の近くの漁港で食べたシラスが甘くておいしかった」という話をしたところ、完全に無視されました。それ、スイーツの話じゃねーだろ!

  

■文学少女っぷりがスゴい

ここまでですでに感づいているかもしれませんが、野田さんは文学に精通しており、太宰治や芥川龍之介作品の一節からセリフをちょいちょい引用したがります。それはそれで文学少女らしくて萌えポイントのようにも思えるのですが、野田さんのチョイスはマニアックすぎるのです。

バイト先のファミレスでゴキブリの死骸を見つけた時は、「さようでございます、あの死骸を見つけたのはわたしに違いございません」(芥川龍之介「藪の中」)などとセリフが自然に出てくる博学ぶり。

  


白って200色あんねん、ぐらいの無駄知識
  

「太宰治の『津軽』って、文庫本に注釈が447個あるのをご存知ですか? つまり本文と巻末を447回行き来しなければいけないのです!」

みたいな細かすぎる豆知識も紹介してくれます。一般人には恐ろしいほどにどうでもいい知識ですね。

  


縁起悪いなあ
  

ちなみに野田さんは自分の誕生日を伝える時も、「私の誕生日って、アントワネットが断頭台で処刑された日と同じなんですよー」などと言います。もっとなんか別の表現方法あるだろ……。

  

■ファミレスバイトで大活躍

野田さんは大手ファミレスチェーン「ジョリーズ」でウェイトレスのアルバイトをしています。このジョリーズのキャッチフレーズは「すべてはお客様のために」なのですが、そのフレーズを真に受けている野田さんの接客方法は、ほかの人とちょっと違います。

  


説明が長い
  

「和牛ハンバーグ」を頼む客に対し、
「和牛という表記は国産を意味するものではなく、外国で育てた和牛を輸入したものであったりしますがよろしいですか?」

「海藻サラダ」を頼む客に対し、
「もしかして『海草=ヘルシー』と思われてのご注文かもしれませんが、当店のドレッシングをかければみな似たようなものですがよろしいですか?」

  


ある意味、お客様想い
  

「ドリンクバー」を頼む客に対し、
「意外と面倒でおかわりしなかったり元をとろうと無理に飲んで後でトイレに行きたくなったりしがちですがドリンクバーご注文で大丈夫ですか?」

常連に対して、
「あんまりいらっしゃるとエンゲル係数が高まりますがよろしいですか?」

などなど、いちいち余計な一言を添えて接客をしてくれるのです。このせいで、営業に影響が出ていると思いきや、「すべてはお客様のために」を実践している貴重な店員ということで、リピートして通ってくれている常連客がたくさんいるのです。野田さんの隠されたカリスマ性が光るエピソードですね。

  

■地味女子なのにアグレッシブ

地味系女子は自分に自信がないので、行動力もあまりないように思われがちですが、野田さんの場合は自分では地味だと思ってない、天然の地味系女子なので、意外にもアグレッシブな一面を持っています。

  


意外とアグレッシブ
  

ある日突然、大学のミスコンに出場することを決意する野田さん。テレビが壊れたため、優勝賞品の42型プラズマテレビ目当てにしているのですが、友人の重松さんに「野田さん、今あなたは100mを3秒ぐらいで走ろうとしてるわよ」って言われるぐらいの可能性の低さです。

しかし、野田さんには勝機があるようです。

  


すべてはプラズマテレビのために・・・
  

「ホラ、ふざけてクラスの目立たない子をみんなで学級委員に推薦しちゃうなんてこともありますし!」

……結果、書類審査で落選でした。

また、大胆にも出会い系サイトに登録したりもしています。彼氏を見つけるとかいう動機ではなく、いろいろな人と交流してみたいと文通代わりに使っていたのですが、その交流内容にはだいぶクセがあり、本の中で挟まって死んでる虫「紙魚(シミ)」の話題をした挙げ句に、その虫の写真を送りつけたら相手から返事が来なくなってしまいました。……なぜ、その話題で共感を得られると思ったのか!

  

■犬のヨダレで懸賞GET!?

  


すごすぎる能力
  

野田さんは究極の不思議ちゃんですから、いろいろと特殊な能力も持っています。懸賞ハガキを出す時に、犬のヨダレで切手を貼ると絶対当たるジンクスを持っているのです。ただし、安価な賞品はチワワクラスの犬で当たるが、1万円を超えると大型犬じゃないと当たらないという制約もあるため、ブルドッグのヨダレを使って「越前ガニ」を当てたりしています。なんだその輝かしい実績は……。

  


懸賞のためなら命がけ
  

そして、ハワイ旅行を当てるため、ついに野田さんが動く! なんと、命を懸けて土佐犬のヨダレをゲットしに行くのです。ボロボロになりながらも、無事土佐犬のヨダレで切手を貼ることができ、結果としてハワイアンセット(マカダミアナッツほか)が当たりました。やっぱり、当たることは当たるんだ!!

そんなわけで、読むほどにジワジワくる不思議な面白さのある地味系女子マンガ『野田ともうします。』を紹介しました。ハマる人は絶対ハマるので、一度読んでみてはいかがでしょうか? それにしても女性が主人公なのに、すがすがしいくらい恋愛の要素がゼロなのも、今どきのマンガとして逆に新鮮な体験でした。

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出典)『野田ともうします。』 柘植文/講談社

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