最近、泣いてますか?
J君は最近、歳のせいか涙もろくて困ります。照英のスクール・ウォーズなんか観た日にはきっと大変なことになると思います。ところで、皆様は「一杯のかけそば」というお話をご存知でしょうか?今から12年程前に一躍大ブームを巻き起こした童話です。
「一杯のかけそば」 あらすじ(ネタバレ)
大晦日の晩、札幌のおそば屋さん「北海亭」に二人の子供を連れた貧しそうな女性が現れる。そして申し訳なさそうに「あの・・かけそば・・一人前なのですが・・よろしいでしょうか?」それを見て、こっそり1.5人前のそばをゆでるそば屋の主人。そして親子3人で出された一杯のかけそばを分け合って食べたのでした。この親子、交通事故で父親を亡くし、年に一回だけ大晦日に父親の好きだった北海亭のかけそばを食べに来ることだけが贅沢だったのです。
そして、次の年の大晦日も・・・その次の年も。かけそば一人前を頼む親子。
いつしか北海亭の夫婦は、大晦日にかけそばを注文する親子の来店を楽しみにするようになり、毎年大晦日は親子の座る2番テーブルを予約席にするようになったのでした。
しかしある年からパタッと来なくなるかけそば親子。それでも親子のために予約席をとって待ち続けた北海亭の夫婦。そして十数年後のある日、すっかり大きくなった親子三人が再び「北海亭」に現れる、子供達は就職してすっかり
立派な大人となり親子三人で「かけそば」を三丁頼むのでした。主人は涙で頬を濡らしながら・・・「あいよっ!かけ三丁!」。
・・・そんなちょっと胸にキュンとくるハートウォーミングな泣けるお話です。J君のように心の清らかな人であれば、このあらすじを読んだだけでも涙が溢れてくるに違いありません。
しかしその後、この「一杯のかけそば」の作者は寸借詐欺の過去がバレて御用になってしまい世間をキュンとさせただけでなく、自分がお縄になって「キャン」と言うはめになるという気まずいオチになってしまいブームは急速に去っていった、別の意味でも切ないお話です。
そんな一杯のかけそばブームの間隙を縫って作られた映画がありました。その名も「一杯のかけそば」実写版。そう、映画化されていたのです。しかも「文部省選定」作品として。
一杯のかけそばを頼む貧乏母さん役は泉ピン子。確か「渡鬼」では中華料理屋「幸楽」のおかみだったはず・・・そのピン子がなぜそば屋に?さては敵状視察か?などと勘ぐってしまいまいそうですがそんなはずはありません。そもそも子役がえなりじゃないことからも一目瞭然ですね。
それにしても街角ちょっといい話、的なショートストーリーの原作に対し、この実写版「一杯のかけそば」といいますと・・・なんと99分!大長編なのです。一体、このシンプルなお話をどれだけアレンジすれば99分もの超大作になるのか?実写版の見どころはまさにそこにあります。さあ早速御覧頂きましょう!
いやいやいやいや、何でアニメなの!?
これじゃ実写版「一杯のかけそば」って紹介したJ君の立場がありません。さすが文部省選定・・・国家レベルのフェイントをかけてきました。そんな感じで驚愕していると、いつの間にか本編がスタートしてました。どうやらオープニングのみアニメだった模様。
慎吾ちゃん
舞台となるのは昭和45年頃の札幌のおそば屋さん「北海亭」。結構繁盛しているらしく、いつも常連客でにぎわっています。その中でも柳沢慎吾の存在感がピカイチ。存在感って言うか相変わらずうるさいです。
そして、大晦日の営業も終わり、後は年を越すのみとなったその時、親子がお店にやってきます。「あの・・かけそば・・一人前なのですが・・よろしいでしょうか?」
でました!かけそば親子。パーフェクトなピン子の貧乏スタイルがこの映画の「本気」を感じさせます。そう・・・ヤツらは本気で視聴者を「泣かせ」にかかってきているのです。
「おいしいね!」
かけそばを分け合って食べる親子のシーンを完全再現。無邪気な子供のセリフもとてもアグレッシブに視聴者の胸をしめつけます。
次の年の大晦日、北海亭にまたヤツらはやって来た・・・そう、かけそば親子です。この一年間で何一つ変化もなく再び3人でかけそば一杯。150円也。
追加設定
そして、実は北海亭の夫婦は子供を交通事故でなくしているというエピソードが挿入されます。かけそば親子の下の子供がちょうど同い年という設定。原作にはない追加オプションで、さらに視聴者を泣かせにかかります。
そして、ピン子が死んだ夫の写真の前で一言。
「いつかきっとみんなで一杯づついただけるように、一生懸命働きます。」
・・・・ううう。切ないシーンです。
だけど、もうちょっと欲出していこうよ!たとえばカツ丼とかさ!
さらに3年目の大晦日。かけそば親子にある変化が見られました。
「あのう・・かけそば二人前なのですがよろしいでしょうか・・・?」
二人前て!なんて微妙な。
マイナーバージョンアップってところですか。
「アンタ!二丁だよ!二丁!」
そこまでデカイ声で言うとイヤミです。
どうやらピン子母さん、ついに借金を返し終わった模様。そして小さい方の息子はというと、作文が全国コンクールに出されることになったそうです。その息子の作文のタイトルは「一杯のかけそば」、一年目の北海亭での出来事を小学校で紹介するエピソードへ突入します。
作文のポイントとしましては
・お父さんが交通事故で死んでしまい、多額の借金が残ったこと
・お母さんが朝から夜遅くまで働いていること
・兄さんは新聞配達をしていること
・自分はクラブ活動もせずに家事をやっていること
・北海亭のかけそばを食べて、将来自分も日本一のそば屋になりたいと思ったこと
それを聞いて思わず、涙ぐむ北海亭夫婦。ずるい・・・ずるいです。この子供。お店でそんな美談を読み上げたりしたら、名指しされた北海亭にとっては相当プレッシャーです。
そんなちょっといい話が新聞に載ってしまった次の年の大晦日、なんと北海亭にはかけそば親子に取材しようと多くのマスコミが駆けつけます。迷惑そうな北海亭の夫婦。そこに・・・・なんと・・・
ニセモノが!
「お母様?かけそばってこれだけ?」
「何にも入ってないじゃない!」
「こういう味気ないおそばを分け合って食べなければならない、貧乏な人達のことも分かってあげなければね」
超ムカつく親子です。
もちろんこのニセかけそば親子も原作には出てきません。だんだんTV版ドラゴンボールZ並の大胆なアレンジになってきました。結局その年、かけそば親子は現れず、それからずっと来ることはなくなってしまいました。
そして、十数年が過ぎ、突然かけそば親子が北海亭に現れたのです。・・・っていうか、あの子供が鶴見辰吾に進化してる!!えらいことです。
↓
そして、姿を消してからのエピソードを語りはじめるピン子。もちろん苦労しまくりの人生です。
パラリラパラリラ
なんか弟の方はグレて暴走族に入ってます。
そして兄と乱闘。家庭内バーリ・トゥード開始。メチャメチャ不幸な親子ですね。
もちろん原作には全くないエピソードです。・・・だんだんTV版ドラゴンボールGT並のアレンジに(以下略)。そんなこんなで今は立派に社会人となった息子達。
父親の写真の前にもかけそばが置かれ・・・ついに、四杯のかけそばが実現しました。
「父さん、北海亭のおそば、はじめてみんなでいただけますよ・・・」
結局かけそばかよ!
カツ丼セットとか頼めばいいのに・・・・就職したんだから。
そしてエンディングに突入。
最後もアニメかよ!
・・というわけでシンプルだった原作に比べ、様々な「泣き」オプションが追加された結果、非常にゴージャスとなった実写版「一杯のかけそば」いかがでしたでしょうか?正直J君にはこの作品、あんまり泣けませんでした。っていうか普通に貧乏くさいお話になってました。どうやら、かけそばの話しだけに、のびてしまうと大味になってしまうのかもしれません。
ただ一つ言えることは、このビデオを購入したJ君にとっては、別の意味で泣きたくなる作品であったということです。
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出典) 「一杯のかけそば」 電通/ポニーキャニオン販売
原作「一杯のかけそば」 栗良平/角川文庫