『ガングリオン』 もしも戦隊モノに出てくる戦闘員が、サラリーマンだったら……究極の社畜マンガ

もしも戦隊モノに出てくる戦闘員が、サラリーマンだったら……究極の社畜マンガ『ガングリオン』(日刊サイゾー2015/8/25掲載)

その昔、「コミックヨシモト」というマンガ誌が出版されていたことをご存じでしょうか? ヨシモトブックスから2007年に発売され、わずか7号で休刊した「コミックヨシモト」は、その名の通り、お笑いと芸人と関西をテーマにした作品がズラリと並ぶ画期的なコンセプトの雑誌でした。レイザーラモンHGが「フォー」と叫びながら事件を解決する探偵マンガや、ハリセンボンがOLに扮してどつき合いをする4コママンガなど、なかなか面白かったんですが、完全に黒歴史としてなかったことにされております。

そんな「コミックヨシモト」に連載されていた作品で、読者に支持され、単行本になった数少ないマンガのひとつに『ガングリオン』という作品があります。今回は、このマンガをご紹介します。

『ガングリオン』は戦隊モノや仮面ライダーなどでおなじみの悪の手下、いわゆる戦闘員たちが、実はサラリーマンだったという設定のマンガ。戦闘員の中間管理職が上司や部下との人間関係でいろいろ苦労するという、実に哀愁が漂っている作品です。


戦闘員だってサラリーマン

舞台は、世界征服をもくろむ悪の組織「株式会社ガングリオン」と、正義のヒーロー「ホープマン」が所属する特殊法人「日本平和開発機構」が対立する世の中。悪の組織が株式会社になっているというのが斬新なわけですが、当然そこに所属する戦闘員「ベルベ」たちはサラリーマンということになります。つまり、全身タイツの戦闘員の皆さんには妻子がいて、給料をもらっていたりするわけです。仕事帰りはおでん屋台で1杯ひっかけたり、お父ちゃんの仕事が悪役なので、子どもがイジメられたりもするわけです。戦闘員ってのも、なかなかしんどい仕事なんですね。


おでん屋で愚痴る夜

主人公は、そんなベルベ軍団の主任を務める磯辺。主任ってことは中間管理職なわけで、戦闘員の中でも一番つらい立場です。上司であるシャドー大佐(本名・影山稔)の理不尽な命令を聞きつつ、中途社員やアルバイトなどが混在するベルベ軍団を率いてホープマンと闘い、そしてお約束通りボロ負けします。


一家の大黒柱

悪の組織ガングリオンはプロジェクト単位でいろいろと悪いことをして、国民に迷惑をかけようとします。例えば……

「東京スギ花粉作戦」
「東京水没作戦」
「東京都CO2蔓延作戦」
「東京タワー切断作戦」

みたいな感じです。作戦名だけ見るとわりとシュールですが、スギ花粉作戦なんて花粉症の人にとっては殺意が湧くのではないでしょうか? しかし、正義のヒーローホープマンに阻止され、国民は何事もなかったように日常生活を送ることができるのです。


戦闘員は辛いよ

ベルベたちは毎回、ホープマンにボコボコにされるとわかっていても仕事をしなきゃいけないし、悪役なので家族は肩身が狭い……。これほどのブラック職種が、ほかにあるでしょうか? そんなブラックぶりを象徴するような数々のセリフがまたサラリーマンの哀愁を誘います。

「一晩寝ても疲れがとれへんし、ベルベなんていつまでもできる仕事やないなぁ」
「磯辺、お前も健康診断受けたほうがいいぞ、健康第一! 戦闘員は体が資本だからな」
「ベルベは生命保険に入れないんです。危険職種だから生命保険にも入れない危険な仕事なんです」
「ベルベ軍団の家族がどんな気持ちでベルベを作戦に送り出すか…今日もきっとまた殴られて帰ってくる そう思いながらも心配させないように笑顔を作って…そんな気持ち、あなたに分かりますか?」


生命保険に入れません

おまけに、ガングリオンの上層部もいろいろと問題があるようです。そもそも上司が怪人なわけですから、その時点で根本的に問題があるんですけど。インターン入社の戦闘員とベテランの戦闘員の会話をお聞きください。

「自分、将来何目指してんの?」
「ここだったらやっぱ怪人ですかね。アルマジロ将軍とかけっこうシブイっす」
「怪人か…けっこう厳しいで…派閥争いとかドロドロだよ!」


将来の夢は怪人

派閥争いでドロドロ!? まあ怪人だけに、ドロドロしてなんぼっていうところはあるんでしょうけど。人間関係がギスギスしてるのって、嫌ですよね。人間関係っていうか、怪人関係ですけど。

さらに世間は狭くて、ホープマンの彼女が実は磯辺の妻の妹だったり、上司のシャドー大佐が左遷されたのでお中元贈るのをやめたりとか……。普通のヒーローモノでは決してお目にかかることのないサラリーマンの哀愁や、人間くさい部分が魅力のマンガとなっています。

ちなみにご紹介した株式会社ガングリオンですが、さんざんブラック企業だなんだと書きましたが、不況の折に300人も新規採用をするなど、儲かっている会社なのも事実です。

世界征服部門以外にも不動産部門や武器販売部門など多角経営もしていますし、体力に自信があって転職を考えている方なら、受けてみる価値があるかもしれません(出世したら怪人になっちゃいますけど)。

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引用)
『ガングリオン』
白岩 久弥 / いつき たかし / ワニブックス

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