5日間の出張のはずが……ジャパニーズサラリーマンの悲哀を描く『僕らはみんな生きている』

5日間の出張のはずが……ジャパニーズサラリーマンの悲哀を描く『僕らはみんな生きている』

 GWという絶好の海外旅行シーズンを前に、旅行業界に激震が走りました。そう、格安旅行会社「てるみくらぶ」の経営破綻です。特に衝撃なのは、現在海外に渡航中の旅行者が自力で帰ってこなければいけないという、文字通りの片道切符状態。これはさすがに前代未聞でしょう。

ところで、行ったが最後、お国に帰れないワンウェイチケットなマンガといえば『僕らはみんな生きている』。ほんの5日間の海外出張だったはずが、テロに巻き込まれ、マラリアに感染し、パスポートを盗まれ……など、あらゆる災厄が降りかかり、帰国不可能になってしまった悲惨なジャパニーズサラリーマンの物語です。

本作は、1992年から「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載された漫画版と、93年に公開された映画版が存在するメディアミックス作品ですが、本稿では山本直樹先生による漫画版をご紹介します。エッチマンガのカリスマである山本先生による本格的ビジネスマンガ――この組み合わせが意外や意外、バッチリハマっているのです。

主人公は、大手建設会社のサラリーマン・高橋。社命により、西南アジアの小国・タルキスタンへ5日間の出張に行くことになるのですが、タルキスタンは軍事政権であり、テロやクーデターは日常茶飯事。国民の貧富の差が激しく、大部分が貧民。マラリアやコレラなどの風土病もあり、日本人にとってはかなり劣悪な、いわゆる渡航したらヤバい国のひとつです。

高橋は、たった5日間の出張のため、完全に観光気分だったのですが、出迎えに来た現地法人の駐在員・中井戸がクセモノでした。あの手この手で高橋の出張を長引かせ、あわよくば駐在員を高橋に押し付けて自分は日本に帰国しようと画策します。短期出張のつもりが、気づけば次期駐在員候補へ……なんという恐ろしいトラップでしょうか。

その中井戸によるトラップの最たるものが、彼の運転手兼現地妻であるセーナによるハニートラップ。セーナを高橋にあてがい、夜な夜な誘惑させます。現地の女にハマらせてしまえば、帰りたくなくなるはず……という作戦です。高橋には日本に恋人がいるのですが、見事セーナのハニートラップにハマり、ヤッてしまいます。これではもう、相手の思うツボですよね。

さらに極悪なことに、中井戸は高橋のパスポートを盗み出します。大使館でパスポート再発行を試みる高橋に対し、現地の職員を買収して再発行を引き延ばすなど、徹底的に帰国を妨害。本気で高橋にタルキスタン駐在員を押し付けようとします。

着々と帰国不能な状態に追い込まれ、マラリアに感染して生死をさまよい、セーナに優しくされて情が移り……嫌がりながらも、次第にタルキスタンの生活に慣れ始める高橋。完全に永住パターンです。

ところが、軍事政権にクーデターが起こり、タルキスタンは一気に内戦状態へ。中井戸や高橋たち日本人はタルキスタンからの脱出を図ることになり、ゲリラが仕掛けたブービートラップだらけのジャングルを突き進むアドベンチャーマンガへ。

そして従順な現地妻だと思っていたセーナが、実は中井戸を利用して軍の情報を収集し、国家を転覆させるべく活動するゲリラのメンバーだったことも判明。ストーリーが急展開します。

登場人物たちの裏切りに次ぐ裏切り、後半に何回も来るどんでん返し的展開に翻弄される、典型的なジャパニーズサラリーマン高橋による最後の逆転劇とは――!

このマンガの魅力はズバリ、謎の女セーナのマタ・ハリもビックリな女スパイっぷりに尽きます。山本直樹先生による妖艶なイラストもバッチリハマっており、連載当時リアルタイムで読んでいた僕は、まるでエロマンガを読んでいるかのような錯覚に陥ったものです。山本先生の画ってなんでこう……エッチなんでしょうね。

というわけで、世界情勢が不安定になりつつある今だからこそ読んでおきたいマンガ『僕らはみんな生きている』を、ご紹介しました。みなさんも海外出張や旅行の際は、うっかりハニートラップにハマって、気がついたら現地の人に……なんてことにならないよう、くれぐれもお気をつけください。

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引用)
『僕らはみんな生きている』
一色伸幸/ 山本直樹/小学館

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