10周回って面白い!?伝説のすべり芸ギャグマンガ 「パパはニューギニア」
パパニューは腐ったミカンじゃない!
お笑い芸人さんの笑いの手法では「すべり芸」というのがあります。ギャグやトークでその場が微妙な空気になり、失笑や苦笑がもれるという芸風です。TVではそこに別の芸人の鋭いツッコミが入ることで爆笑に変わることもあるのですが、それがもしマンガだったら果たしてどうなのでしょうか・・・?考えただけでも恐ろしいですね。
かつてそんなすべり芸を体現したようなギャグマンガが存在しました。渾身の力を込めて繰り出されるギャグがことごとく寒いのですが、画に破壊力がありすぎるので失笑とも苦笑ともつかない笑いが思わずこみあげる・・・そんな画の暴力ともいえるおそるべきギャグマンガ「パパはニューギニア」を本日はご紹介します。
「パパはニューギニア」は高野聖ーナ先生による作品で、1994年から1998年までビックコミックスピリッツで連載されていました。
ビックコミックスピリッツといえば80年台から90年台にかけて「コージ苑」「伝染るんです。」を生み出し、ナンセンスギャグマンガ、不条理ギャグマンガの黄金時代を築き上げた雑誌です。その他にも「クマのプー太郎」「サルでも描けるまんが教室」「じみへん」「江戸むらさき特急」などなどハイレベルなギャグマンガが次々と連載されておりました。
そして「パパはニューギニア」はその「コージ苑」「伝染るんです。」に続くスピリッツの名物ともいえるギャグ4コマ枠で華々しく登場したのです。どんな作品かというと、こんな感じです。
キャラのインパクトが全て
お、おう・・・
キャラのインパクトだけで押す強引なギャグ。たった一コマで大体どんな作品か全貌が分かってしまいますね。「コージ苑」「伝染るんです。」の後継マンガでありながらスタイルとしてはいわゆる4コマ漫画ではなく1コマの時もあれば2コマの時もあれば5コマの時もあるという・・・とにかくフリーダムなのですが一番多いパターンと思われるのは3コマの形式です。このような感じです。
どうすんだよこれ・・・
・・・でっていう。
ご覧いただければ分かるようにスクリーントーンを一切排除した異様なまでに描き込みをされた画がパパニュー最大の持ち味です。ギャグの手法としては基本的に
キャラで落とす
ダジャレで落とす
キャラとダジャレの合わせ技で落とす
の3パターンに集約されております。よく言えば様式美、悪く言えばワンパターンといっても過言ではないくらい方向性にブレがありません。実例はこんな感じです。
キャラで落とす・・・
とにかくグロキモい
ダジャレで落とす・・・
トムヤムクンとトムくんをかけたダジャレ
キャラとダジャレの合わせ技で落とす・・・
ヒヨッコとひよ子をかけたダジャレ
絵柄は一貫してとにかくグロキモい感じで、破壊力だけなら当サイトの本の表紙を描いて下さった漫☆画太郎大先生にも負けてないレベルです。
またその前衛的なギャグセンスは相原コージ先生が完全に壊れてしまった時の作品「なにがオモロイの?」の狂気に通じるものを感じさせますが、トータルで見るとそれらどれにも似ていない全く異次元のギャグマンガといえます。
ちなみにタイトルの「パパはニューギニア」は南国のパプアニューギニアのダジャレ。作者名の高野聖ーナは、泉鏡花の作品でおなじみ「高野聖(こうやひじり)」の文字りであることは想像に難くないわけですがこの時点で若干スベってる感じがたまりませんね。
スピリッツでリアルタイムで読んでいた方には凄まじいインパクトとトラウマを植えつけたと思われるこの「パパはニューギニア」ですが、単行本はさらにすごいことになっており、出版不況とよばれて久しい現在ではおそらくこんな装丁は不可能であろうというぐらいミラクルな仕上がりになっております。その奇跡の装丁をいくつかご紹介いたしましょう。
イレギュラーすぎる・・・
まず、全2巻の単行本第1巻と第2巻で本のサイズが違います。
並べてみるとものすごく中途半端です。まるで本棚に並べて置かれることを拒んでいるかのよう。
モノクロでも方向性は一緒です
しかも悲しいことに1巻では全ページカラーの豪華仕様だったのに対し2巻では最初の数ページのみカラーで途中からモノクロになるというあからさまなコストダウンが図られています。この辺に出版業界の大人の事情を感じさせますね。
表紙カバーの表裏全てにマンガが
背表紙にまでこんな感じで・・・
また、表紙カバーから裏表紙から単行本のいたるところにマンガが散りばめられています。あまりにいろんな所に載っているので全てのネタを読みきるのは難しいです。
そして、パパニュー名物ともいえるコマ欄外の殴り書き。スピリッツ掲載当時は比較的ちゃんと読めた記憶があるのですが、単行本に収録されている殴り書きはスペースの都合なのか・・・
落丁寸前の殴り書き
マンガよりこっちが気になる
全然読めません。完全にページから見切れており、もはや文字というより単なるデザインと化しています。解読できる範囲でご紹介すると・・・
「諸般の事情により不本意ながら大抜擢!!」
「高野聖ーナ先生のギャグを掲載せざるを得ないスピリッツ編集部一同に励ましのお便りを!」
「頑張れスピリッツ頑張れ俺!!(担当)」
「パパはニューギニアは人気爆発で木ッ端微塵に!」
「人間って、愛って、そんなものじゃないだろ?パパニューは腐ったミカンじゃない!」
「なーにが「パパはニューギニア」だ!」
「お便り殺到で嬉しい悲鳴ではなく本当の悲鳴が編集部に響く毎日・・・」
「熱狂的な「パパニュー」ファンがいる日本を憂う」
「年がら年中梅雨入り宣言中のギャグ湿地帯!!」
「この作品のページは定価の本体価格とは無関係です」
「攻めて攻めて攻めまくれスピリッツ!責めて責めて責めまくれこいつを!」
「不意をつくオモシロさにビックリ!油断していると笑うハメに陥るぞ」
「こんな楽しい漫画見たことないや!なんて言うキミ、さては共産圏のスパイだな!」
「思わぬ大評判に漫画に対する感性が揺らぐ編集部は・・・・?」
パパニューを仕事で嫌々読まされることになったスピリッツ編集部の怨念とも呼べる数々の愚痴やら独り言が耳なし芳一のごとく連なっており、下手すると本編のマンガよりギャグセンスが光ってます。恐るべしスピリッツ編集部。この殴り書きは単行本一巻のみに収録されているのですが、二巻は二巻でエラいことになっており・・・
読みづらすぎ
本の綴じ目にもマンガを収録!読みづらいことこの上なし!!
そして、二巻のラストではマンガ史上最も斬新なオチが登場します。J君もいろいろマンガを読んできましたがこういうオチのパターンを見たのははじめてです。それは・・・
面倒くさすぎるオチ
なんとオチの部分がクロスワードパズルになっているという。
パズルを解かないとオチのセリフが分からない・・・超めんどくせぇ。ギャグマンガなのにもはやオチを読むことすら叶わないのです。
というわけでギャグマンガ界の超異端児「パパはニューギニア」をご紹介しましたがいかがだったでしょうか?
J君は連載時はクスりとも笑えずただただキモチ悪いマンガだと思っていたのですが、今読んでみたら10周ぐらいまわって逆に超面白いと感じてきました。これって、名画の巨匠たちが当時は評価されなかったのに没後に再評価されるような感じでしょうか?そういえば高野聖ーナ先生の絵柄ってなんとなく抽象画っぽいし。今年あたり再ブレイクするかもしれませんね。しないか。
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出典) 「パパはニューギニア」 高野聖ーナ/小学館
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