谷崎潤一郎『春琴抄』はこんな話だったのか! “超ドS”と“超ドM”のせめぎ合うエロス『ホーキーベカコン』 (日刊サイゾー 2020/03/11 掲載)
腹部に甘酒の如きものが溢れた!(下ネタ)
皆さんは文学を嗜むタイプでしょうか? 僕はめちゃくちゃ疎いです。特に昭和の文豪の類いは苦手で、ほとんど読んだことがありません。ちゃんと覚えているのは小学校で習った『走れメロス』ぐらいでしょうか……。夏目漱石、芥川龍之介、太宰治、谷崎潤一郎など、読めば間違いなく名作なんでしょうけど、面倒くささのほうがどうしても先に立つんですよね。でも、それがマンガになってるのであれば、話は別!
今回ご紹介するのは、谷崎潤一郎の『春琴抄』をコミカライズした『ホーキーベカコン』という作品。あまりに奇異なタイトル、妖しくも美しい美少女が描かれた単行本の表紙、「彼を待っていたのは甘美な地獄だった――」というエロスを感じざるを得ない煽り文句。気になる要素が満載すぎて、どうしても手に取らないわけにはいかなかったのです。
超美少女・春琴様
舞台は江戸末期。天才的な箏(こと)の才能を持つ美貌の少女・鵙屋(もずや)琴(春琴)とその付き人、温井 佐助の物語。大阪船場の名家・鵙屋の二女である春琴は、その美貌と舞の才能から、時の帝の寵愛を受けるほどでしたが、9歳で失明という不幸に遭い、その後は性格がゆがみ、あまりのわがまま女王様っぷりから周囲の者が誰もついていけない状態に陥ります。
どんだけ怖いんだよ・・・
春琴に呼ばれただけで、鵙屋の侍女たちは顔面蒼白、恐怖のあまりガクガクと震えています。春琴の前で粗相をしようものなら――その恐ろしさからある者は失禁したり、首を吊るほどまで――精神的に追い込まれるのです。北の将軍様をも凌駕する恐ろしさです。
気難しすぎてもはや誰も近寄ろうとしない春琴に対し、ただ一人だけ、献身的に尽くす付き人がいました。それが、鵙屋の丁稚(でっち)として働く佐助です。
スーパードM・佐助爆誕
佐助は春琴よりも4歳年上ですが、春琴の美貌や箏の才能に心酔しきっており、奴隷のような仕打ちを受けながらも耐え忍び、付き人稼業を全うします。それが春琴への愛ゆえなのか、ガチのドMだからなのか判断に困るレベルなのですが、たぶん両方です。
■一流文学は下ネタも芸術に昇華!
努力を惜しまないドM
超ワガママな春琴の付き人を務めるだけでなく、春琴を教祖様のようにあがめている佐助は、ひそかに自ら三味線の練習をするようになります。ついには正式に春琴の弟子となり、師弟関係を結ぶのです。しかし、待っていたのは地獄のような稽古の日々でした。
佐助にはご褒美です
ヒクソン・グレイシーのごとく、マウント体勢から佐助をボコボコにする春琴。盲目の少女なのに、恐ろしいほどの攻撃力です。11歳の少女に4歳年上の男が毎晩悲鳴を上げるという異常な特訓風景は、鵙屋の従業員たちだけでなく、世間からもウワサされるようになります。
芸に厳しすぎる姐さん
はた目には鬱憤晴らしのDV行為に映る春琴と佐助の稽古風景ですが、実はそれだけ真剣に佐助を一人前に育てたいのだという、春琴の想いの裏返しであることが佐助に伝わると……
イっちゃってる!
佐助の腹部にドピュッと甘酒の如きものが溢れたのです。要するに、イッちゃったんですね。そして、佐助の超ドMな性癖がここに開花しました。それにしても「甘酒の如きものが溢れた」って、凡人には絶対思いつかない表現ですよね。一流文学は下ネタでも、芸術に昇華できてしまうということが見事に証明されました。
■”女王様”と”ドMの僕”が夜な夜な……
ただのモノ扱い(でもご褒美)
もうひとつ衝撃的なシーンをご紹介しておきますと、夜な夜な佐助がお年頃の春琴のHのお相手をさせられるシーンがあるのですが、「はよ勃たせえ」「やかましい、息せんとき」などとののしられて、単なるバイブ扱いです。「はよ勃たせえ」って言われて勃たせられたらAV男優なら一流だと思うんですが、とにかく全然うらやましくないシーンです。これもドM冥利に尽きるんでしょうか……。
プライドはめちゃ高い姐さん
でもって、そんなに毎晩やってたもんだから、当然デキちゃうわけですが、丁稚奉公の佐助との間にできた子どもなんて プライドが許さない春琴。認知せずに里子に出してしまうのです。こんなにひどいドMプレイは聞いたことないよ!
まさかの肥料プレイ
しかし、佐助の異常ともいえる春琴への崇拝っぷりはエスカレートするばかり。例えばこのシーン、庭に咲く菊の花びらをセクシーに頬張る佐助を見て、お付きの女子がドキンとするシーンですが、実はこの菊、春琴の不浄(ウ●チ)を肥やしに育った菊であることが判明するのです。マジやべーよ、イカれてるよ佐助!
■セクハラ親父にはお仕置き!
何も知らないバカ現る
30歳、40歳と年を重ねてもまるで少女のような奇跡のビジュアルを維持する美魔女・春琴ですから、当然いろんな男が言い寄ってくるのですが、ことごとく返り討ちにされます。例えば梅見の酒宴の席で、酔った勢いでセクハラするこの男(バカ)ですが……
ツッコミもドSな姐さん
引きちぎれるほど乳首をつねり上げられて悶絶。しかも「なんや 梅の樹が啼くとは けったいなこと あるもんやな」なんて、小粋なドSジョークまでかましてくれます。姐さんにはシャレが通じないって何度言ったらわかるんでしょうか。
春琴最大のピンチか・・・?
さらに酒宴の席で佐助が目を離したスキに、個室に連れ去られた春琴、待っていたのは春琴と一発ヤりたいと狙っていた女好きの公卿様、春琴最大のピンチか!? と思いきや……
余裕で返り討ちでした
スケベなお公卿様をきっちりと縛り上げて昇天させています。まさに女王様の面目躍如でした。盲目ながら、なんという達人技。駆けつけた佐助がそれを見て……
■自ら眼球に針を打ち込んで失明……究極の愛
そうなの?
「お美事にございまする」
師匠のセクシー緊縛ポーズを見せつけられ、またしてもイッてしまった佐助。これぞ理想のドSとドMの関係。プロフェッショナルの流儀なのであります。
その後も、春琴と佐助の身にはいろいろな騒動が襲い掛かりますが、そのたびに佐助の春琴推しはエスカレートを続けます。賊に襲われて、美しい顔に熱湯を浴び大やけどをしてしまった春琴の姿を見ないようにするため、自ら眼球に針を打ち込んで失明させてしまったり……
生涯ドMの人生でした
春琴が54歳で亡くなった後、20年以上もいちずに師匠を想い続け、コスプレ春琴様に踏みつけられる夢を見て興奮しちゃう80歳の佐助。実質夫婦のような関係だったにもかかわらず、最後まで対等な関係と認めてもらえなかった佐助ですが、ドMにとってはむしろ究極のご褒美なのかもしれません。怒涛の攻めを受け切る天龍源一郎のプロレスのような人生だったのでした(わかりにくい)。
というわけで、思わず甘酒の如きものがあふれちゃいそうな、エロティックで超美麗な笹倉綾人先生の画が魅力の春琴抄コミカライズ作品『ホーキーベカコン』をご紹介しました。谷崎潤一郎の『春琴抄』ってこんなクレイジーな世界観だったのか! と驚くことしきりの作品でした。
タイトルは鶯の鳴き声でした
ちなみに、タイトルの『ホーキーベカコン』ですが、春琴お気に入りのウグイスの鳴き声なのでした。ホーキもベーコンも関係ありませんので、念のため。
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出典)
『ホーキーベカコン』 笹倉綾人/KADOKAWA / 谷崎潤一郎『春琴抄』より