食材限定グルメの憂鬱・・・うなぎ限定マンガ「う」 & チーズ限定マンガ「チーズの時間」

食材限定グルメの憂鬱・・・うなぎ限定マンガ「う」 & チーズ限定マンガ「チーズの時間」




ほんの少しでいいから・・・うなぎより愛して!
今年もうなぎの値段が高騰しまくっているとのことで、ただでさえ滅多に食べれないうなぎが庶民には一層縁遠いものになりそうですよね。なにしろ国産うなぎはもはや絶滅危惧種だと言われているくらい希少です。今年の土用丑の日も高価なうなぎを求めて阿鼻叫喚の地獄絵図になるのでしょうか・・・ちなみにJ君が最近食べたうなぎといえば、夜のお菓子「うなぎパイ」ぐらいのものです。そして昼のお菓子は「しらすパイ」ですね。関係ないですけど。

ところで、ひたすらうなぎのことを描く、うなぎオンリーマンガが存在します。その名も一文字の「う」というマンガです。また、チーズだけを題材にしたマンガ「チーズの時間」というマンガも存在します。うなぎやチーズだけでマンガを書き続ける・・・普通に考えたらすぐにネタ切れになってしまいそうなこれら食材限定グルメマンガのおそるべきチキンレースの世界を今回はご紹介したいと思います。


「う」は週刊モーニングに連載されていたラズウェル細木先生の作品です。ラズウェル先生といえば「酒のほそ道」「風流つまみ道場」などなど、いわゆる酒にまつわる呑べえマンガを多数手がけている大御所で、オヤジ向けグルメマンガを読みあさっていれば行き着く先は必ずラズウェル先生のマンガになると言われています。

なにを隠そうJ君は昨年「このマンガがすごい2013」に参加させていただいた際に、期待のマンガ第一位として「う」を推させていただいたのですが、その直後に連載終了になるという事態が発生。ちなみに第三位にした「ザ・松田」も終了してしまいましたし・・・J君が推薦するといろいろ縁起が悪いみたいです。なんかすみません。

とはいえ、「う」はうなぎネタオンリーで、しかも週刊漫画誌で100話(単行本4巻分)も描かれているマンガです。ラーメン、寿司、中華などテーマを限定しているグルメマンガは決して珍しいものではありませんが、さらにもう一段階踏み込んで食材レベルを限定してしまうとマンガとしてのネタの広がりが非常に苦しくなるというのにすごいことです。しかも昨年以降はうなぎの高騰がニュースで取り上げられ、うなぎに逆風が吹き荒れる中でも淡々とうなぎネタで連載を続けたその精神力は並々ならぬものがあります。では、どのようにしてうなぎオンリーで100話も続けられたのか?その秘密に迫ってみましょう。


うなぎを愛しすぎた男

「う」の主人公、藤岡椒太郎(ふじおか しょうたろう)は呉服屋の若旦那で無類のうなぎ好きです。おそらく週に2~3回以上のペースでうなぎを食していると思われます。どんだけ金持ってるんだって話ですが、まあお坊ちゃま設定というところでその辺を突っ込むのは野暮というものです。それにしてもこの椒太郎のうなぎ好きが常軌を逸したレベルです。


クンカクンカ

食べる前にうなぎの薫りを堪能しまくる様子もいささかジャンキーっぽくて危険な感じですが、なんとマイ山椒まで持ち歩いています。うなぎ屋によっては山椒の管理が悪く、香りが飛んでしまっている場合があるのでその時はマイ山椒をかけます。常に山椒を持ち歩いている男・・・あなたの周りに入るでしょうか?少なくともJ君の周りにはいません。


マイ山椒を持つ男

しかも、結婚式の日取りを決めるように婚約者に迫られている状況の中でもズバッとこう言い放ちます。


これは人格に問題あるだろ

「私は今、うなぎを食べているんだ」
逆切れ気味に一喝!男・・・いや漢といってもよいですね。結婚よりもうなぎをとる男、藤岡椒太郎。まさに筋金入りのうなぎを愛する男です。そして一度うなぎを口に入れようものなら、宇宙にトリップですよ。このテンションの高さ、尋常じゃないですよね。


うなぎトリップ

それにしたって、普通に考えたらうなぎなんてうなぎの蒲焼を紹介したらもうネタ切れじゃないかと思いますよね?ところがうなぎを愛しすぎる男、椒太郎によるミクロの視点でうなぎを見ればこれだけ多くのネタが転がっているのです。

肝焼き、白焼き、うな丼VSうな重、スーパーのうなぎ、う巻き、うざく、骨せんべい、肝吸い、ヤツメウナギ、関東VS関西、名古屋のひつまぶし、福岡のうなぎせいろ蒸し、四万十川のうなぎ、うなぎ屋の山椒、半助豆腐、うなぎと梅干、うなぎとワイン、うなぎ酒、うなぎ寿司、うな茶、牛丼屋のうなぎ、うなぎの高騰、土用丑の日、フレンチのうなぎ、中華料理のうなぎ、うなぎとごはんのバランス、うなぎパイ、浜松うなぎ、パリのうなぎ、精進料理のうなぎ、うなぎの缶詰・・・


中華料理のうなぎ


牛丼屋のうなぎまでフォロー

・・・どうですか、この無限に広がるうなぎネタラインナップ。このネタの数々がそれぞれ1話1話を形成しているのです。さっきのマイ山椒ネタで1話とかです。お陰様でJ君は食べたことはおろか、聞いたこともないような未知のうなぎメニューを知ることができました。うなぎの頭を使った料理「半助豆腐」とか「うなぎ酒」とかマニアックすぎるわ!


鰻の頭と豆腐を煮込んだ半助豆腐


うなぎ酒

それに、うなぎの蒲焼だけとっても地方によってかなり違いがあるようです。関東、関西のうなぎや名古屋のひつまぶしは割とメジャーなネタだと思いますが、浜松、福岡、高知(四万十)、中国・・・そしてパリのうなぎを紹介するとかもうね・・・パリに行ってまでうなぎ食うなよ!


関西と関東のうなぎはかなり違います

この「う」ですが、読んでいると本当にうなぎが食べたくなって衝動が抑えられなくなります。

1.「う」を読む ⇒ 2.うなぎが猛烈に食べたくなる ⇒ 3.うなぎ屋の前を通る ⇒ 4.高いので諦める ⇒1.にもどる

読み始めるとこの無限ループが繰り返されます。まれに給料日後などにこのループを外れて

うなぎを食べる ⇒ 金欠
吉野家でうなぎ ⇒ なんかガッカリ

という流れもあるのですが、いずれにしても恐るべきうなぎの魔力がこのマンガには宿っています。まるでうなぎのごとくニュルニュルと逃げまくっていた椒太郎が婚約者とついに結婚するシーンでは「ほんの少しだけでいいからうなぎより愛して」と女子に絶対言わせてわいけないセリフまで言われる始末。今後、成田離婚ならぬうなぎ離婚が起こらないことを祈りたいですね。


うなぎだけに末永くお幸せに・・・

続いてご紹介するのは「チーズの時間」というマンガ。世にも珍しいチーズ限定マンガです。今までも「焼きたて!! ジャぱん」のようなパンのマンガや、「神の雫」「ソムリエール」のようなワインのマンガなどは存在していましたが、チーズ限定となると相当地味な感じになることが想像されますね。


チーズの時間

ところでグルメマンガは大まかに3つのパターンに分かれます。

1.「料理バトルタイプ」は「ミスター味っ子」、「焼きたて!! ジャぱん」、「スーパーくいしん坊」などに代表されるとにかく料理対決がメインのマンガです。全体的に作品のテンションが高く、作品後半になるとトンデモ料理が出てくる傾向が強いです。ただし新しいライバルが出現しては、対決が複数話にまたがるので比較的ネタ切れを起こしにくい構造になっているといえます。

2.「人助け・問題解決タイプ」は「クッキングパパ」や「ザ・シェフ」などの、人のお悩みを料理で解決してしまうタイプ。わりと穏やかな作風が多く、料理もレシピ紹介ができるような現実的なものがほとんどで、1話完結のものが多いです。ただし作品後半になると、どう考えても料理では解決できない無茶なお悩みまで料理で解決できてしまうご都合主義的展開になる傾向があります。

3.「ひたすら食べたり作るだけタイプ」は「孤独のグルメ」や「花のズボラ飯」、「めしばな刑事タチバナ」、そして前述の「う」のようなタイプのマンガです。とにかくひたすら飯を食う、うんちくを語る、料理を作る。特にバトルしたり人助けしたりしません。1や2のタイプのグルメマンガが多すぎたためか、最近になって特に評価されるようになってきたカテゴリーですね。

日本を代表する長寿グルメマンガ「美味しんぼ」の場合は、普段は2の「人助け・問題解決タイプ」なマンガでありながら、海原雄山が挑発してくるといきなりバトルモードになって1のタイプになるというハイブリッド型グルメマンガです。さらに時事ネタを取り入れたりもしてますし、巧みにネタ切れを起こしにくい構造になっているあたりはさすが日本を代表する長寿グルメマンガといえましょう。

そして「チーズの時間」はどのタイプに属するかというと、2の「人助け・問題解決タイプ」です。おフランス生まれのチーズがテーマらしく、ひたすらエレガントにマンガが進行していきます。主人公は弱冠20歳で「全フランス チーズ鑑評騎士」の称号を得た美少女、亜氷音レミ。フランスでチーズを極めたレミですが、幼い頃に両親を事故で失っており、日本にいるはずのおじいちゃんとおばあちゃんを探すため、故郷の日本に帰国してチーズ専門店を始めるのです。


チーズ=フロマージュです


フロマージュとお呼び!

レミは作品初期の頃、チーズのことを本場フランス流に「フロマージュ」と呼んでいました。タイトルが「チーズの時間」なのに主人公が頑なにフロマージュと呼ぶため、いまいちピンとこない状況が発生しておりましたが、さすがに分かりにくいからか途中から普通にチーズというようになりました。

ストーリーはレミが、困っている人をチーズを使ってガンガン人助けしていくというものがメインになっています。例えば、スランプで画が書けなくなった画家がたまたま無類のチーズ好きで、フランス時代に食べたとある思い出のカマンベールチーズをもう一度食べられたら、また作品描けそうなんだけど、探してくてくれないかね・・・みたいな、ほんとに偶然たまたまチーズで困ってるクライアントが世の中にはいるものなんですね


チーズで困ってます

それでレミが数少ないヒントを元に苦労して探してくると・・・


ドヤ顔でチーズ紹介


面倒くさい画家

「わるいが・・・私が食べたいカマンベールはこれではない」
とかね。そんなに食べたいんだったら商品名ぐらいちゃんと覚えとけよ!みたいな。

もっと大変なのもあります。スイスのマッターホルン山頂で遭難し、行方不明になった青年の最後の写真。青年がたまたま手に持っていたチーズは果たして何か・・・・?そしてそのチーズに込められたメッセージとは・・・?


無理ゲー

あまりに無理ゲーすぎるクイズですが、レミはこのチーズを一発で探し出し、行方不明になる前にこの青年がチーズにこめた最後のメッセージを青年の父親に届けることができたのです。


チーズで円満解決

こういう面倒くさいクライントを一つ一つチーズ限定で解決していくのです。レミって本当にすごいですよね!
もちろんレア物チーズがわんさか出てきますので、ちょっとしたチーズの薀蓄を学ぶにはもってこいのマンガでもあります。


ダニだけど美味しいらしいです

ダニによって熟成されたチーズ「ミモレット」とか・・・。


幸運を呼ぶチーズらしいです

馬蹄の形のチーズ「バラカ」とか・・・。
基本的にはエレガントな感じでチーズ人助けが続いているマンガなのですが、途中でフランス料理の店にスカウトされたり、ラストの方でいきなり料理の鉄人テイストなチーズケーキ対決をやったりして雰囲気がドカンと変わったりします。やっぱり食材限定ネタを維持するのって大変なんでしょうね。


なぜか料理の鉄人スタイルに

日本でもチーズ好きの人って結構いると思うのですが「チーズの時間」は是非ともそんな方に読んでいただきたい作品です。J君もこのマンガを読んだ後、早速したり顔で、6Pチーズのことを「6Pフロマージュ」って呼ぶようにしてみましたけど。「え、フロ・・・何?」みたいにキョトン顔されました。やっぱりにわか知識は通用しませんね。

というわけで食材限定グルメマンガ「う」「チーズの時間」をご紹介しましたがいかがだったでしょうか?連載するにはあまりに過酷な条件のため、もはやこのカテゴリーのマンガは絶滅寸前なのかと思いきや、なんとラズウェル細木先生のモーニングでの新作が・・・・


なんと豚肉限定

豚肉限定グルメマンガ 「ぶぅ」
すげぇ・・・うなぎの次は豚肉限定ですか(こちらで第一話が読めます)。ラズウェル細木先生は一体どこに向かっているのか・・・とりあえず、読んでみると「カレーはビーフカレーよりポークカレーのほうが美味いんだ!」みたいなちょっと先行きが心配な感じの内容になっておりましたが、1ファンとして応援しております!



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出典)
「う」 ラズウェル細木/講談社 Kindle版
「チーズの時間」 山口よしのぶ/花形怜/芳文社
◆WEBで「う」を立読み ⇒ ebookjapan
◆WEBで「チーズの時間」を立読み ⇒ ebookjapan

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